サバがいるはずなのに獲れない理由
サバの水揚げ量が減少し、サバ缶の原料が不足して一時休売となったり、商品が原料価格の高騰で値上げされたり、その中身についても大きなサバが減って小さなサバが使われて味が落ちたりしています。消費者にも影響が出ています。
サバの資源量の増減には「漁業」が大きく影響しています。しかしながら、獲れない原因について、サバに限らず獲りすぎてしまった現実を避けるように分析されることが主流になっています。このため、さまざまな理屈が合わない理由が出て来て社会が混乱しています。
21年に水産研究・教育機構はサバ類の資源評価の結果について「資源評価ピアレビュー委員会」を開き、国内外の外部研究者からの客観的な批評を受けています。サバに限らず、日本の資源評価はどう見ても漁獲量や資源量が減っているのに、逆に資源量が多い、しかも増えているといった評価が散見されます。そこでこのような外部からの評価と公表は、無謬性による弊害をなくすためにも重要なことなのです。
その中では、米国海洋気象庁(NOAA)からさまざまな問題から誤解が生じやすいと指摘されており、「著しい改善」を求めるコメントがありました。例えば巻き網一回で何トン獲れるかの指標について、これでは魚群の大きさがわかるだけで、漁船の進歩・技術などが無視された分析であり、魚の年齢や群れの数、自然死亡率の推定、周辺国の漁獲データが足りないなどと言われています。
日本で起きている「サバはいるはずなのに獲れない」という現象は、長年北欧でのサバ漁を研究している筆者は見たことがありません。漁獲枠が設定されている通りに獲れなかったなどということは、政治的にノルウェー漁船が漁獲海域を欧州連合(EU)から制限された(2009年・消化率64%)以外にはこれまでありません。一方で、日本では毎年、枠が大きすぎて漁獲枠通りに獲れないことが続いています。
埋蔵金を当てにしたような漁獲枠
資源評価を誤ると社会に深刻な弊害を引き起こします。日本では、北欧・北米・オセアニアなどで機能しているTAC(漁獲可能量)とは、中西部太平洋まぐろ委員会(WCPFC)で合意したクロマグロを除き「別物のTAC」が設定されています。
サンマでもサバでも、獲り切れない大きなTACが出てしまうため、漁業者による過剰漁獲が止まりません。獲りすぎるのは決して漁業者に原因があるのではなく、その資源評価に問題があります。
FAOでは水産資源管理において、予防的アプローチが定められていますが、日本の資源管理にはその形跡が見当たらないのも大きな問題です。サバは典型的であり、だいたいが以下パターンとなっています。
過大な資源量評価⇒漁業者から不満が出ない過大な漁獲枠の設定⇒資源も漁獲量も減り価格高騰⇒小さい魚まで根こそぎ漁獲して資源崩壊⇒減った原因は海水温上昇や外国漁船に責任転嫁され国民が誤解⇒資源が減っているので大漁祈願しても獲れない⇒不漁による深刻な社会問題が起きる
すでにサバが潤沢という評価が出ていても、実際には資源は既に減ってしまっているから獲れない。本当は減っているのでは? と何年も前から感じている漁業者やその関係者は少なくないはずです。しかし無謬性により、いまさら本当のことは言えないのかもしれませんが、それで良いのでしょうか? あるはずがない埋蔵金(水産資源)を前提とした資源評価やTACの設定は、資源崩壊を加速させるだけなので止めるべきなのです。