2024年12月7日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2023年6月27日

重要なのは、変数を減らさないこと

 ここで重要なのは、変数を減らさないこと。生物の行き当たりばったりの無計画な生き方こそが安定を生むため、行動を狭く絞り込むとむしろ安定性が損なわれてしまうのだ。

 「SDGsの一つ一つの目標(項目)はいいことだと思いますよ。でも、その中の一つに固執して突っ走ってしまうのはよくない。それぞれの目標が、変化して行く社会から取り残される人を少しでも減らすための手段、時間稼ぎの方策、くらいに考えておけばいいんじゃないのでしょうか」

 SDGsの17の目標を点検すると、環境以外に社会や経済の分野が存在する。

  ③すべての人に健康と福祉を、④質の高い教育をみんなに、などは社会問題と呼べるし、②飢餓をゼロに、⑨産業と技術革新の基盤をつくろう、などは明らかに経済問題だ。

 「日本の町や道路は世界一清潔。国民も昔からきれい好きです。そうであるなら、SDGsの中のCO²削減やプラゴミ、食品ロスなどに必要以上にこだわるより、社会、経済分野のもっと別の問題に目を向けるべきでしょう」

 酒井さんが挙げたのは⑤ジェンダー平等を実現しよう、⑧働きがいも経済成長も、だ。

 世界経済フォーラム発表の〈ジェンダーギャップ報告書〉で、日本は今年、世界146カ国のなかで125位だった。日本は過去に女性首相がおらず衆議院議員の女性比率が1割、経済界でも役員や管理職がひどく少ない。

 また労働経済分野では、長時間労働や正社員の少なさ(派遣社員の多さ)が知られており、経済停滞は長く続き、2021年のGDP成長率ランキングも日本は157位だった。

 「酒井さんは二つ提言されていますね。日本の場合、企業は従業員の自由度をもっと高めた方がいい。そうすると働きがいも、結果としての経済成長も得られる。生真面目な若者に対しては、失敗を恐れず行動せよ、そして大人は若者の失敗をもっと大目に見よ、と?」

 「日本の社会は、効率を求めすぎるからちょっと息苦しいんですよね。だから、従業員も若者も萎縮してしまうことが多い。社会基盤はしっかりしているんだから、もっと余裕を持って、気楽にやればいいと思うんです。その方が、日本という社会の持続可能性を結局は高めると思いますよ」

 日本にとってのSDGsとは、「世の中に正解はないのだから、ボチボチやればいい」。どうやら、そういうことらしい。

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