2015年の国連総会で、国際社会が2030年までに達成すべき17項目のSDGs(持続可能な開発目標)が採択された。
『カオスなSDGs グルッと回せばうんこ色』(酒井敏、集英社新書)は、そのSDGsに対して、地球物理学者の立場から、「闇雲に追随するのではなく、距離を置いた方がいい」と提言する。
「アホなことをせぇ」
著者の酒井さんは2年前から静岡県立大学の副学長だが、それ以前は長く京都大学に勤務した。「自由の学風」で知られる京大では「アホなことをせぇ」と逸脱が奨励されたが、新たな任地では教える側も学ぶ側も非常に生真面目。県立大で産学連携の担当になってSDGsにも関わるようになり、最近の若者たちのSDGsなど「キレイごと」への思い込みの強さが気になり、本書を書いたという。
最近もこんなことがあったと例を挙げた。
「ベンチャー向けのセミナーを開催した時、聴衆の高校生の一人が“世界から貧困をなくしたい”と発言したんです。インドの貧困地域も見てきたという行動派の若者です」
①貧困をなくそう、はSDGsのトップ項目でもある。酒井さんが「君はどんな時に幸せを感じるの?」と聞くと、「世界から貧困がなくなってくれたら幸せです」と答えた。
「でも、世界から貧困がなくなるまで日本の若者が幸せになれない、というのはどう考えてもおかしい。また、彼に貧困層とされた人が、それだから不幸、とも限らない。ある収入以下は貧困イコール不幸と、先進国の価値観を押しつけているだけかもしれない」
酒井さんがSDGsに関してもっとも危惧するのは、日本や欧米などの先進国で、SDGsが「地球環境を守る社会運動」であるかのように受け取られていることだ。
CO²削減と、プラスチックゴミの問題
中でも、CO²削減と、それに関わるプラスチックゴミの問題である(SDGsでは⑬気候変動に具体的な対策を、が該当)。
「日本はプラゴミの約7割を焼却していますが、5割以上を埋め立てている欧米からは“CO²排出を減らしなさい”と非難されています。けれど酒井さんは、日本の方が正しいと?」
「そうです。埋め立てた廃プラは土に還りません。サステナブルではない。一方、焼却したプラゴミから出るCO²は微々たる量ですし。しかも植物に吸収されて循環します」
日本では、地方自治体に負担を強いている分別収集も中止して焼却すべしと言う。種類が雑多なプラスチックはリサイクルに回しても品質が劣化するばかり、費用対効果が悪いのだ。
「ただし、ペットボトル類は品質が一定なので、これはリサイクル向きですね」