ワグネルと連携したロシアのアフリカ進出
ワグネルはロシア政府の意向に沿って、15年にシリアに進出した後、アフリカ諸国にも展開した。ロシアがアフリカ各国と軍事協力協定を締結する中、同社の活動国も拡大し、主にスーダンや中央アフリカ共和国、マダガスカル、リビア、モザンビーク、マリで確認されてきた。
米戦略国際問題研究所(CSIS)が21年7月に発行した報告書によれば、ワグネルはスーダンや中央アフリカ共和国で18年より軍事訓練の提供や資源採掘場の警備などを行い、マダガスカルでは18年12月の大統領選挙で、鉱物資源や石油の権益の見返りに、現職のラジャオナリマンピアニナ大統領の再選を支援するため、世論工作を行った。19年4月にはリビア紛争に本格参戦し、東西に分裂したリビア国内の東部勢力側を支援し、人員や武器を拡充させながら、リビアでのロシアの軍事拠点の構築に貢献した。
同年9月には、日本の天然ガス権益があるモザンビーク北部カーボ・デルガード州に展開し、イスラーム過激派掃討作戦を実施。そして21年末に展開したマリでも、マリ軍と連携して各地で過激派対策に従事中である。
ロシア政府がワグネルをアフリカ諸国に投入する目的は、経済利権の獲得と、親ロシア勢力の形成であると考えられる。ワグネルは治安維持サービスの見返りに、多額の契約金を得ている。また、プリゴジンの関連企業が金やダイヤモンドといった天然資源の採掘権を独占し、地元経済を搾取している。
ワグネルとしては、数多くの傭兵を抱える以上、彼らの雇用を維持するために、強硬な手段も辞さない。次に、ロシアはワグネルを通じて、同社が活動する国の外交方針をロシア寄りに変えようと試みている。
アフリカ諸国の中で非民主制の国々は、欧米諸国による内政干渉に不満を募らせ、欧米諸国の対抗勢力であるロシアとの関係強化を求めている側面もみられる。ロシアとしては、こうしたアフリカ諸国の一部が抱く反欧米感情につけこみ、寄り添う姿勢をアピールすることで自国の影響下に置き、国際社会でロシアを擁護してもらうのが狙いであろう。
ワグネル反乱でアフリカ地域情勢に変化
ロシア政府とワグネルはアフリカ進出で連携してきたものの、ウクライナ戦線の状況が悪化するにつれて、ワグネルを率いるプリゴジンはロシア政府および軍に対して不満を募らせ、そして6月23日にロシア政府・軍に対して武装蜂起した。情勢は鎮静化したものの、アフリカ地域に駐留するワグネルの動向に注目が集まっている。
仮にワグネルがアフリカ各国から撤退する事態となれば、活動国の政情や紛争の趨勢にも多大な影響を及ぶことが予想される。ワグネルは中央アフリカ共和国やマリで現政権の転覆の試みを防止する役割を担い、リビアでは停戦ラインの最前線に配置され、西部勢力による東部への進攻を防ぐ軍事的抑止力として機能している。このため、ワグネルの存在がなくなれば、同社が後ろ盾となっていた現政権への軍事クーデターや、勢力バランスの歪みに伴う大規模な武力衝突が発生する恐れがある。
ワグネルをめぐってロシア情勢が混乱する中、6月29日から30日にかけて、リビア駐留ワグネルが拠点とする東部の空軍基地が所属不明のドローン機による攻撃を受けた。このようなワグネルの弱体化を目指し、同社を標的とした攻撃が今後も活発化する可能性がある。
さらにマリではワグネル撤退に伴い、イスラーム過激派の更なる勢力拡大が懸念される。22年8月にマリを完全撤退したフランス軍に代わり、ワグネルは過激派掃討作戦でマリ軍を支援している。しかし、同社が過激派の駆逐を強圧的に進め、過激分子との嫌疑をかけて地元住民を一方的に弾圧したことが、むしろ過激派を刺激し、攻撃増加に伴う治安悪化に拍車がかかっている。