ロシアの民間軍事会社ワグネルの反乱は同組織が活動を拡大してきた中東やアフリカにも少なからぬ影響を与えるのは必至だ。すでにシリアではロシア軍によるワグネル戦闘員の拘束も始まっている。米国はこの混乱を同地域で低下した存在感を回復するチャンスとみており、今後ロシアとの緊張が高まりそう。
先兵として十数カ国で活動
ワグネルは中東・アフリカ地域への進出とともに成長した。その過程を探ると、ロシアを再び世界の大国にするというプーチン大統領の野望を実現するため、ロシア軍の影の部隊、先兵として各地に浸透していった実態が浮かび上がってくる。情報を総合すると、ワグネルが関与した同地域の国は18カ国にも上り、現在も2万5000人前後が駐留しているとみられている。
ワグネルの活動は現在ロシアが占領しているウクライナ東部のドンバス地方で、ロシア系住民を支援してウクライナ軍に攻撃を開始したのが始まりだ。2014年のことである。
この時の司令官はロシア軍特殊部隊の指揮官だったドミトリー・ウトキンだ。ナチスの信奉者だったといわれるが、プーチン大統領はクレムリンで勲章を授けている。
元々、中東・アフリカにはロシアの幾つかの民間軍事会社が進出していたが、ワグネルとしては15年、ロシアがシリアのアサド政権を救うため軍事介入してから本格化した。プーチン氏との親密な関係をテコにワグネルをロシア軍の別動隊として拡大させていったのが今回の反乱の首謀者であるプリゴジン氏だ。内戦や紛争につけ入って独裁者らの警備を担当し、時には反政府勢力の掃討作戦に参加し、数百人規模の虐殺にも加担したと非難されてきた。
同氏は17年には、北アフリカのリビアに部隊を派遣し、東部を支配する「リビア国民軍」のハフタル将軍を支援、国連の手助けで発足した中央政府への攻撃に加わり、スナイパー部隊を動員した。リビアへの進出に当たってはロシア軍が海軍の空母にハフタル将軍を招待するなど厚遇、プーチン政権とワグネルが一体となって作戦を推進していることが浮き彫りになった。
その後はスーダンやモザンビーク、中央アフリカ、西アフリカのブルキナファソ、マリなどに部隊や顧問団を派遣、警備や軍隊の訓練、反政府勢力との戦闘など、活動を広げていった。戦闘活動に現時点も従事していると見られているのはマリと中央アフリカだ。ワグネルの行動の多くは秘密裏に行われ、場合によって報酬は金やダイヤモンド、ウラン鉱石の採掘権という形で与えられた。