ロシアの民間軍事会社「ワグネル」を率いるエフゲニー・プリゴジン氏が仕掛けた「反乱」は、勃発から実質1日で収束に至るなど、呆気ない終わりを見せた。しかし一連の過程で浮き彫りになったのは、多くのロシア国民が軍や治安機関への信頼を失っているという現実と、ウクライナ侵攻をめぐりロシア社会の奥底に深刻な亀裂が生じているという実態だ。
侵攻が始まった理由が、「ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)とともに攻めてくるなどというでっち上げ」にあったと明言したプリゴジン氏に、多くの国民が喝采を送った事実は重い。
プーチン氏は力によって国民と社会を押さえつけることで、20年以上にわたりロシアを統治してきた。その統治を維持するために、今回生じた亀裂をさらに強権的な手法で抑え込むのは必至だ。しかしそのような状況は、ロシア社会をさらなる閉塞状態に追い込み、〝プリゴジンの乱〟に続く新たな暴発を引き起こす可能性もある。
ワグネルへ歓迎ムード一色
「人々はワグネルの戦闘員らに歩み寄り、話しかけ、握手を求めていた。住民らは興奮していたよ。彼らは戦闘員らを〝立派な奴らだ〟〝まったく正しい行いだ〟などと称賛していた。一緒に記念撮影をしたり、水や食べ物を差し入れる人々もいたよ」
ウクライナの前線を離れ、モスクワに向かって進軍するワグネルの部隊がまず向かったロシア南部の都市、ロストフ・ナ・ドヌー。現地メディアが報じたワグネル〝侵攻時〟の様子は、危機感とは真逆の歓迎ムードだった。一部の人がスーパーに買いだめに走ったりしたケースもあったというが、多くの人々はワグネルの部隊を歓迎した。
ワグネルは同市でロシア軍の南部軍管区の司令部を制圧した。しかし警察や軍兵士らは、まったく抵抗しなかったという。「ワグネルの兵士らが国防省に激怒していることも理解できたし、軍の汚職に不満を持っていることも理解できる」と住民らは語っていたという。
ワグネルが次に向かったボロネジ市でも状況は変わらなかった。市では石油の貯蔵施設が爆破され、黒煙が上がった。施設は、ワグネルが給油に使うことを防ぐためにロシア軍が爆破したとみられている。しかし目立ったパニックは見られなかった。