6月6日、ウクライナ南部で、ドニプロ川を堰き止めていたカホフカ水力発電所のダムが決壊するという事件があった。ダムのあるヘルソン州では広大なエリアが水没し、犠牲者も出ている。
ロシアとウクライナは、これは相手側の破壊によるものだとして、非難を応酬している。また、これまでの戦闘で損傷の進んでいたダムが自然に崩壊したのではないかという見方も、一部にはある。
現時点では、原因を特定するのは不可能である。ただ、国際的にはロシアによる意図的な破壊であったとの見方の方が主流だ。個人的にも、ウクライナによる反転攻勢の選択肢を狭め、また時間稼ぎをするためにロシアが意図的に破壊したと考えるのが自然という気がしている。
ダム決壊を受け、ウクライナ農業省は、農地の水没による被害が発生し、また今後土地が砂漠化する恐れがあると指摘した。ただ、断片的な報道からだけでは、「水没」と「砂漠化」がどう結び付くのか、疑問に思った方も多かったのではないか。今回のコラムで、そのあたりを解説してみたい。
最大の影響は灌漑の麻痺
ウクライナ南部のこの一帯は、ステップ気候である。土地は肥沃なものの、雨が少なく乾燥しており、夏には気温も上がる。自然状態では、必ずしも農業に最適な土地ではない。
このようなウクライナ南部を、豊かな農地に変えたのが、ソ連時代に進められた大規模灌漑であった。とりわけ、ドニプロ川下流に1950年代に建設されたカホフカ貯水池が、その水源となった。
今回、それを支えていたダムが決壊し、カホフカ貯水池の水位が急激に低下した。今後、カホフカ貯水池から水を引けないとなると、ウクライナ南部各州の灌漑システムは、ヘルソン州で94%、ザポリージャ州で74%、ドニプロペトロウシク州で30%、機能しなくなるという(ロシアによる占領地域は除いた計算)。ダム決壊がもたらす農業への打撃で、最も懸念されるのがこの部分である。
一方、水没したエリアでは、当然のことながら、水に浸かった作物が駄目になってしまう恐れがある。また、ウクライナ農業省によれば、水没した農地には特別な土壌修復作業が必要になるという。ただ、面積から言えば、上述のように灌漑システムが機能しなくなることによって被害を受ける農地の方がより広大で、なおかつ影響が長期化するのではないだろうか。