2024年5月15日(水)

プーチンのロシア

2023年6月15日

 ウクライナ農業省が警鐘を鳴らしている「砂漠化」というシナリオも、カホフカ貯水池の水位低下により、灌漑ができなくなることを主に念頭に置いているはずである。この一帯を豊かな農地に変えた農業用水が失われれば、水の乏しい元のステップ地帯に戻る恐れがあるからである。

 ウクライナ農業省の発表には、被害を強調するための誇張も若干込められていると思われる。実際には、羊を放牧して草を食べ尽しでもしない限り、「砂漠化」までは行かないはずだ。それでも、豊潤だった農地が荒れ地と化して、耕作が放棄されたりする可能性は否定できない。

ヘルソン州は「スイカの名産地」

 それでは、灌漑システムの麻痺が懸念されるヘルソン州、ザポリージャ州、ドニプロペトロウシク州は、どのような農業地域だったのだろうか?

 ウクライナといえば、穀物と、ひまわりを中心とする採油作物の生産・輸出が有力なので、3州におけるそれらの収穫高をグラフで示してみた。ウクライナが史上最高の豊作を記録した2021年のデータであり、一部がロシアに占領される前の状況ということになる。

(出所)ウクライナ統計局発表データに基に筆者作成 写真を拡大

 この中で穀物・採油作物の収穫量が最も多いのがドニプロペトロウシク州で、農業生産の数字が確認されるウクライナ24地域のうち5位の収穫量であった。ザポリージャ州は13位、ヘルソン州は14位で、穀倉地帯という観点では中位ということになる。

 作物の構成では、ザポリージャ州とヘルソン州は小麦、大麦、ひまわりが中心で、ドニプロペトロウシク州の場合にはそれにとうもろこしも加わる。小麦と大麦は、これら3地域でウクライナ全体の4分の1ほどを生産しているので、仮に灌漑の機能不全が長期化すれば、グローバル市場への影響も無視できなくなる。

 ちなみに、ソフィア・ローレン主演の戦争で引き裂かれた男女を描く映画『ひまわり』の有名なシーンである画面いっぱいのひまわり畑の撮影地はヘルソン州であると、長く言われてきた。しかし、最近日本のNHKによる調査報道で、実はウクライナ中部のポルタヴァ州である可能性が高いことが明らかにされた。とはいえ、名画の舞台と言われて納得してしまうほど、ヘルソン州にも広大なひまわり畑は広がっている。

 ヘルソン州の場合は、穀物・採油作物もさることながら、青果物をウクライナ国内に供給する重要産地となってきた。21年の生産量で見ると、ナス(国内シェア39.6%、以下同)、スイカ(33.5%)、トマト(27.8%)、キュウリ(11.0%)、タマネギ(8.6%)といった作物でウクライナ1位となっていた。


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