2024年5月20日(月)

プーチンのロシア

2023年6月28日

プロパガンダに打撃

 プリゴジン氏の動静はその後も不透明で、最終的な決着を見たかは不透明だ。しかしいずれにせよ、今回の騒乱が短期間で終結したからといって、それが起こした波紋が容易に収まることを意味しない。

 最大の問題は、ロストフ・ナ・ドヌーなどで住民らがワグネルを歓迎した事実が示すように、多くのロシア人が本音ではウクライナ侵攻の継続と、政府、軍に強い拒否感を抱いていたという現実だ。プリゴジン氏は、「ウクライナがNATOとともに攻めてくるというストーリーを国防省がでっち上げ、国民や大統領をあざむいた」などとプーチン政権のプロパガンダを完全に否定する発言をしたが、それも人々は事実上受け入れた。

 ワグネルに対する予想以上の人々の歓迎が、同部隊のスムーズな北上を可能にしたことは、結果的に早期の事態収拾につながる環境を生み出した側面もありそうだ。プリゴジン氏の国防省に対する要求内容は不明瞭で、今回の「乱」の最終的な〝着地点〟を本人も詰め切れていなかった可能性がある。

 ロシア国防省はまた、ウクライナでの戦闘に、ワグネル以外に約40もの私兵集団が参加しているという事実を明かしているが、これはロシア軍が既存の部隊だけでは、ウクライナでの戦闘を続けることができない現実を浮かび上がらせた。さらに、このような私兵集団は時として、プリゴジン氏のような〝オーナー〟を守る部隊として活動する。私兵集団が乱立している現実は、プーチン氏の権威が弱まることを見越し、それらの〝オーナー〟らが権力争いに備えている実態を示している可能性がある。

強硬政治に勝利はあるのか

 もとより、プーチン氏は今回の乱を通じ、自身の権力基盤に大きな傷がついた事実を誰よりも深く認識しているに違いない。プーチン氏はポピュリストだが、自身の〝イメージ〟に頼る政治家ではない。軍や警察力などの、力による統治を志向している。

 権力基盤が弱まれば、再強化するために一層強硬的な手段を取るのは必至で、ウクライナにおいては軍事活動をさらに活発化させ、国内においては社会の引き締めをより一層強める可能性が高い。

 ただ、その先にあるのがプーチン氏の勝利にあるかは別問題だ。プリゴジンの乱が前線の兵士の士気を下げるのは必至で、国内でも不満が鬱積している現実を浮かび上がらせた。プーチン氏がロシア国内を引き締めれば引き締めるほど、人心が逆に離れ、第二、第三の〝乱〟が起きる土壌になるのは確実だ。

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