2024年11月22日(金)

World Energy Watch

2023年7月25日

 そもそも、LNGは「備蓄」に向いていない。LNGはマイナス162度以下で保存しなければならず、保管コストが高い上に、時間の経過とともに自然に蒸発しタンクを満タンにしてもおよそ3年でカラになる。従って、LNGにおいては在庫量を最小限にして運用されるのが通例で、日本での平均的なLNG在庫量は消費量の2週間分程度となっている。

 一般に、運用上のバッファーとしての「在庫」に対し、当面消費される予定のない緊急用の貯蔵を「備蓄」と呼ぶが、長期貯蔵が非経済的なLNGは「備蓄」されることはない。

 そこで、LNGを備蓄したり在庫量を増やすというアプローチ以外の方法を考える必要がある。例えば、日本では23年から「戦略的余剰(バッファー)LNG(SBL)」という仕組みを導入した。これは暖房用などで需要の高まる冬季に毎月、LNGタンカー1隻程度を認定事業者に追加で購入させ、その在庫リスクと運用コストを政府が設立した基金が負担するというもの。在庫不足のリスクを一定程度和らげる効果が期待できる。

 また、LNG産消会議開催後に公表された「議長サマリー“LNG Strategy for the World”」においては、官民パートナーシップを通じたLNG輸出事業の株式取得や、プレミアムと引き換えに一定量のLNG購入権を持つLNGオプション契約などが提案されている。

各国で起きる温度差

 同「議長サマリー」では、他にもIEA加盟国だけで世界の天然ガス・LNG貯蔵能力の60%を保有していることに触れながら、「IEAの潜在的な役割」について強調されているが、具体的なことは何も述べられていない。IEAによると、世界の天然ガス・LNG貯蔵能力はおよそ425 bcm(10億立法メートル)あり、このほとんどはLNGタンクではなく岩塩層や枯渇ガス田、帯水層等を用いた地下貯蔵設備である。

 欧州連合(EU)だけで110 bcm程度の貯蔵能力があり、これだけでも日本のLNG消費量とほぼ同じ、LNG平均在庫量の約40倍ある。他にも中国や米国、ロシア等に同様の大規模な貯蔵設備がある。昨年11月の筆者の記事では、こうした世界にある地下貯蔵設備の在庫量を、仮想的にLNGとスワップするなどして緊急時に対応する仕組みを提言した。

 しかし、こうした仕組みで一義的にメリットがあるのは、日本のようにパイプラインによるガス供給や地下貯蔵設備のないアジアのLNG輸入国であり、EUのLNG輸入国にとってメリットがあるのは、21年1月のようにアジアでLNG供給危機が発生した場合に、それがEUの天然ガス価格高騰に飛び火することを防ぐといった間接的な文脈においてである。

 ただでさえロシアからのガス供給が止まり、将来の調達を懸念しているEU諸国からすると、昨年のような厳しいガス価格高騰を経て、ガスセキュリティの強化という意味で総論は賛成であっても、こうした仕組みにすぐに賛同するのは難しいだろう。


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