7月18日、経済産業省は液化天然ガス(LNG)の生産国と消費国が集まる「LNG産消会議2023」を都内で開いた。3年ぶりの対面での開催となるこの会議は、東日本大震災後に日本各地の原子力発電所が事実上再稼働できなくなったことで、日本のLNG需要が急増し、「アジアプレミアム」と呼ばれるアジアでのLNG価格高止まりの状態が続いたことをきっかけに行われてきたもので、LNGに関連する国際会議として毎回数十カ国から1000人以上が参加する世界最大規模のものである。
今年で12回目となるが、今回はこれまでの開催と大きく異なる点が2つある。一つは主催者の変更で、過去の会議はすべて経済産業省とアジア太平洋エネルギー研究センター(APERC:APEC諸国のエネルギー諸課題を分析研究するための組織)の共催で行われてきたが、今回は初めて国際エネルギー機関(IEA)との共催として行われた。
もう一つは開催時期で、過去の会議はすべて9月から11月頃の開催だったのが、今回は7月開催となった。おそらく、IEAにとってその時期は同組織にとって最も重要な”World Energy Outlook”の発行時期であり、そこに配慮したのだろう。
そして、今回の注目点は、日本政府がIEAに対してグローバルな天然ガスのセキュリティ強化の役割を担わせようとしているということである。
国際的なLNGバリューチェーンを阻む壁
IEAとは、その名称からして広くエネルギー問題を取り扱う国連のような国際機関と思われるかも知れないが、その加盟条件は経済協力開発機構(OECD)加盟国であることと、世界の石油供給混乱時に融通が可能な90日分以上の石油備蓄およびその運用制度の整備が必須となっている。これは、元々IEAが1973年の第一次石油危機を契機として、その翌年の74年に、西側諸国の石油セキュリティ強化のために作られたということに由来している。
今回のLNG産消会議では、その開催趣旨の説明文や、西村康稔経産相の発言などで、こうしたIEAの設立の背景や、これまで担ってきた国際石油備蓄スキームの役割が何度も触れられている。日本政府としては、来年で設立50周年を迎えるIEAの新たな役割として、天然ガス分野における国際石油備蓄スキームのような機能を担わせたいのだろう。
筆者は昨年の『Wedge』2022年11月号に寄稿した「露が揺さぶるエネルギー秩序 日本発で〝新LNG構想〟示せ」において、IEAの国際石油備蓄スキームのLNG版を主要7カ国(G7)議長国となる日本が主導して構築すべきであると書いたが、実は22年の9月、西村経産相にこのことを直接進言させて頂いていた。
西村経産相が筆者の言葉で指示をしたのか、それとも自然な流れでこうなったのかはわからないが、もし「国際LNGセキュリティスキーム」が作られるならば、世界で初めて本格的なLNGバリューチェーンを構築し、世界最大のLNG輸入国である日本こそが主導すべきと思う。
しかし一方で、石油備蓄と同様な「国際LNGセキュリティスキーム」を、IEAを中心にして構築することは、非常に難しい問題を孕んでいる。