2024年11月23日(土)

Wedge SPECIAL REPORT

2023年6月23日

 「資源の偏在性を解消して世界の平和と安定にも資するエネルギー」「このままでは、我が国は、技術を提供するだけで産業化に遅れ、結果的に市場競争に敗れるというリスクに晒されている」─。今年4月、政府が策定した「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」。そこには、エネルギー自給率の低さに喘ぐ日本が描く〝バラ色の未来〟と〝並々ならぬ危機感〟が併記されている。

(DRPIXEL/GETTYIMAGES)

 「核」によるエネルギーだが、原子力発電とは原理が異なる。核融合が原子核同士の「融合」で得られるエネルギーなのに対し、原発は原子核の「分裂」で生じるエネルギーだ。東京電力福島第一原子力発電所の事故で国民は原発への不信感を募らせた。その根底には設計時の想定を大幅に超えて過酷な状態に至る「シビアアクシデント」に対応できなかったことや、高レベル放射性廃棄物の処理問題への懸念があるのだろう。

 だが、「核融合」は燃料供給や電源の停止により自然に反応が止まるため原理的にシビアアクシデントは起こり得ず、高レベル放射性廃棄物も発生しない。固有の安全性や環境保全性の高さも備えているのだ。資源が乏しい中で脱炭素社会の実現を目指す日本にとって、まさに起死回生の一手となり得る技術といえる。

 核融合研究には約70年に及ぶ歴史がある。だが、実現に至っていない最大の要因は、核融合に不可欠な「プラズマ」状態を達成できていないことだ。これは固体、液体、気体に次ぐ「物質の第四の状態」で、1億℃以上の超高温・高密度で長時間維持する必要がある。また、プラズマ状態では原子核の周りを回っていた電子が原子核から離れ、それぞれが自由に動き回る。核融合の実現にはプラスの電荷を帯びて反発し合う原子核同士を強制的にぶつけるほどの大きな運動エネルギーが必須となる。

 高温のプラズマ状態を容器内に閉じ込めておくための方法として考え出された方式がいくつかある。「磁場閉じ込め方式」と「慣性閉じ込め方式(レーザー方式)」が代表例だ。

 磁場方式は磁気の力を利用する。日米欧に加えロシアや中国なども参画し、冷戦終結後の国際協調のシンボルとして建設が進む国際熱核融合実験炉(ITER)計画が有名だ。


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