新たに海岸線に「ホーンアレイスピーカー」を3基設置した。スピーカーを4台縦型に組み合わせたもので、各スピーカーから同じ音を同時に出し、音が重なり合うように調節することによって音の指向性を格段に高めた。音響機器メーカーのTOAが開発したもので、従来の2~3倍の距離まで、明確な音が届くようになった。
また、新システムでは、防災無線を海岸近くにある小学校4校の校内放送設備と接続。緊急速報が流れた場合に自動的に校内全教室に流れるように変えた。市役所からの電話連絡を受けて教員が校内放送をしていた従来の仕組みに比べ、同じ情報を一斉に早く伝達できるようになった。
さらに電光掲示板や津波避難標識も設置したほか、市内地域にある携帯電話に自動的にメールを送る「エリアメール」なども整備した。「住民だけでなく、市外からいらっしゃる海水浴などの観光客にも等しく情報が行き渡る仕組みづくりが必要だ」と旭市地域安全班の高橋利典・主任主事は語る。
もっとも全国どこの市町村でも財政状態は厳しい。巨額の設備投資をする余裕はないのが一般的だ。旭市のシステムづくりには1億8000万円ほどかかったものの、総務省の実証実験ということで市に負担はなかったが、今後は市の予算で整備していくことになる。市内に小中学校は20校ほどあり、校内放送との接続などが課題になる。
また、今回のシステムに組み込まれたホーンアレイスピーカーを設置すれば、到達範囲が広い分、スピーカーの設置台数を減らせるため、メンテナンスコストが減るメリットもある。
千葉県では巨額の資金が必要なコンクリート製の巨大堤防の建設は見送り、土盛りして木を植える防潮林の整備を進めている。津波の力を減衰させる効果はあるが、巨大な津波の場合、防潮林を越えて来る可能性はある。そうなると、いかに迅速に避難してもらえるよう情報を伝達できるかが、大きなポイントになる。堤防というハードにかける金額に比べれば、情報システムへの投資は大きくない。旭市では高さ10メートルの津波避難タワーの建設も進めているが、周辺住民や海水浴客全員がそこに逃げられることを想定しているわけではない。あくまで逃げ遅れた人のための設備で、逃げ遅れないためのインフラ整備が重要だと考えている。
静岡、三重、高知にかけての太平洋沿岸、南海トラフ地震による津波が想定されている場所の防災対策はさらに深刻だ。場所によっては、津波は最大30メートルに達するとされ、もはや堤防で防ぐことは難しい。