2024年11月26日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年10月6日

 現大統領のロペス・オブラドール(AMLO)は、メキシコの第4の変革と称して、エネルギー分野を中心に国家の介入による経済運営と最低賃金の引上げ等による低所得層対策を打ち上げ、カリスマ性があり汚職に無縁であることから国民の支持率は高いが、その強権的対応や民主的な諸制度を弱める施策で支持率は漸減傾向にあり、議会でも3分の2の多数を失い、憲法の改正も困難となっている。

 任期をあと1年余りに控え、大統領再選が禁止されているので自らの政策を忠実に引き継いでくれる子飼いの候補の指名に強くこだわったとみられ、それがシェインバウムであった。

 他方、過去の汚職のイメージから脱却できない野党3党の連合にしてみれば、有力政治家は脛に傷持つ者も多く、クリーンな候補でなければ勝負にはならず、候補者選びに苦労していたところであった。そこにAMLOの野党批判の中でガルベス上院議員がやり玉に挙がったために逆に同議員に注目が集まった。

 同議員は、先住民の貧困家庭出身で、苦学して高等教育を受け、ビジネスで成功して上院議員にまでなったというサクセス・ストーリーの持ち主で、汚職の噂もなく、野党連合にとっては最善の候補であろう。性格的にも極めてアイディアに富みカリスマ性を持った人物のようである。

外交や低所得者対策は

 2人の女性候補の政権構想は、上記の記事の通りで、シェインバウムについては、AMLOの主要政策からは外れないであろうが、環境問題の専門家であることから、太陽光や風力等のクリーンエネルギーを重視し、現政権の国営の石油企業や発電事業優先という路線を多少は修正することが期待され、また、予測可能性等の投資環境の問題には配慮を示すことが期待される。

 もっとも、シェインバウム自身MORENA党内に自らの勢力基盤があるわけではなく、MORENAのオーナーは創設者であるAMLOであるので、その方針に正面から反することは難しいのではないかとみられる。

 これに対し、ガルベスの政権構想の詳細は未だ不明であるが、MORENAに対抗する上では、有権者の多数を占める低所得者対策を明確に打ち出す必要があろう。彼女の貧困家庭の経験や先住民系の出身という背景を活用して、貧困層や先住民の共感を得られる指導者となれるのかが分かれ目となろう。

 AMLOは、対米関係を除けば、イデオロギー的に近い周辺国との交流以外には外交に極めて無関心で、アジア太平洋経済協力会議(APEC)や主要20カ国・地域(G20)の首脳会議にはすべて欠席した。この点、2人の女性候補者はより積極的な対応が期待される。

 対米関係については、シェインバウムは、服従ではなく対等の関係を主張し、ガルベスは対米協調の下に一層の経済関係の緊密化を図ると予想されるが、両候補者とも米中関係の悪化による米国のニア・ショアリング政策をメキシコへの投資誘致のチャンスとみなしている。

 AMLOに対する高い支持率を背景にシェインバウムの優位は続くように見えるが、彼女は、外国からの直接投資を敵視する傾向のあったAMLOとは異なり、海外投資の役割に理解があるので、ある程度のビジネス環境の改善が期待できるものと思われる。また、議会でMORENA側が3分の2をとることは困難と見られ、憲法改正による独裁化や経済への過度の国家介入といった傾向の歯止めともなろう。

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