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2013年9月17日

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弓野正宏 (ゆみの・まさひろ)

早稲田大学現代中国研究所招聘研究員

1972年生まれ。北京大学大学院修士課程修了、中国社会科学院アメリカ研究所博士課程中退、早稲田大学大学院博士後期課程単位取得退学。早稲田大学現代中国研究所助手、同客員講師を経て同招聘研究員。専門は現代中国政治。中国の国防体制を中心とした論文あり。

 愛国と利益を株式市場に投影させ「すり合わせる」というのも中国社会では全く新しい経験であり、その中から得るものも少なくないはずだ。

 国防は庶民全体に密接にかかわるものだが、株取引の収益となればなおさらである。国防産業も大国の国民経済の最も重要な一部分であり、庶民に主役として直接的に参加させることで国防の内容にも変化をもたらすだろうし、国防と庶民の関係も身近なものになるだろう。

 中国の国防建設では大きなプロジェクトが目白押しだが、この中国重工の措置を筆頭により多くの国防プロジェクトで資本市場が引き入れられ、中国軍需産業で新しい局面が生まれることが望まれる。

 もし現代の国防が単に納税者のお金が使われるだけでなく、同時に庶民の「金儲け」の助けとなるなら、それは強国と富民の一挙両得となり、中国社会において初めての出来事となろう。

* * *

【論評】

 この社説ではあたかも庶民が株式を購入するとそれが空母建造につながり愛国を表明できるかのようなニュアンスでの株式発行が伝えられている。しかし本当にそのような単純なものだろうか。

 この社説では詳細が触れられていないが、この報道は上海で行われた中国重工幹部による株式発行についての記者会見(PRフェア)がもとになっている。より具体的に言えば「非公開発行A株説明会」である。つまりこの資金調達は未公開株の発行によってなされるということである。株式の取引は公の市場でなされることはないとはっきり明言しているわけだ。

 そもそも空母建造のような国防に関わる事項は機密情報に属するはずであり、株発行のような透明性が求められる株式市場と相容れるとは思えない。現にこの株発行が空母を建設の為と明示された様子はないし、どういった兵器を調達するのかという投資家への説明責任を果たせるのか疑問である。

 社説ではあたかも誰もが売買可能な市場で株式が取引されるようなニュアンスであり、透明性や効率が確保できると解説するが、未公開株なので一般庶民による売買は不可能である。よって株の売買によって愛国心を示すことが可能だ、ということにはならない。

 現在、中国初の国産空母が上海で建造中だとされるが、空母単独では使い物にならないため戦闘群として潜水艦や護衛用艦船、艦載機などセットが整って初めて運用可能となる。この資金調達が膨大な資金を必要とする空母戦闘群の構築にどれだけ寄与するかは未知数である。また投資家にとって今後、かなり長期にわたって成果を期待できない対象への投資が魅力的かどうかも疑わしい。

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