金正恩は1週間の訪露の間、9月13日にボストーチヌイ宇宙基地でプーチンと会談し、その後ハバロフスク地方のコムソモリスク・ナ・アムーレの航空機工場を視察し、9月16日にはウラジオストク近郊で極超音速ミサイル「キンジャール」を視察の後、太平洋艦隊基地を訪問し、ロシアのショイグ国防相と会談した。
今回の訪露により、少なくとも朝露関係のトーンは大きく変わり、両国は軍事関係を強めようとしている。それがどれほど具体化するか、注視していく必要がある。
ロウギンは、金正恩の今回のロシア訪問はバイデン政権の対北政策の失敗の結果だとするが、果たして本当にそうだろうか。
今回の朝露接近の直接の原因は、ウクライナでのロシアの苦戦である。北朝鮮はそれを利用して、ミサイルなど高度な技術をロシアから入手しようとしている。
金正恩の機敏な戦略的判断は、歴史を通じて中露という二つの大国を相手に小国たる自国の利益の最大化を図ってきた北朝鮮のDNAと言える。その意味で今回朝露の間に利益、打算が合致したということであり、バイデンの対北政策に責任はないように思う。
しかし、バイデンの対北政策が最初から非関与という硬直的なものから出発し、これまで何ら変わらなかったことに批判の余地はあるかもしれない。さらに対北朝鮮特別代表には、フルタイムの者を任命すべきだった。米朝関与はコロナの時が一つの機会だった。
交渉のテーブルにつくべきなのか
ロウギンは、今からでも少なくとも一回は真剣な試みをすべきではないかと言う。しかしそれはかえって危険だろう。
もう大統領選挙まで1年余りだ。大統領の頭も選挙モードになる。真剣な政策はできないし、相手からは足元を見られ、リスクが高い。
今回の朝露軍事接近によって、一定限度ウクライナ正面でロシアの軍事力が強化される。アジア方面では、ミサイル等の高度技術の移転があれば、北朝鮮の軍事力の強化につながり、北東アジアの緊張を増大させる。
一旦移転した技術は元に戻せない。今後、特に衛星や潜水艦等につき具体的な連携が実現するかが注目される。もう一つ、制裁への影響も注意が必要である。
ロウギンの北朝鮮に対する危機感は理解できる。時の経過は、北朝鮮に核やミサイル開発の時間を与え、問題の解決は益々困難になっている。特別の事がない限り、今や交渉による非核化の時は過ぎたのではないかと悲観的にもなる。
バイデン政権の同盟強化の政策は、北朝鮮に対する抑止と危機管理の局面に入っていることを示すのかもしれない。しかしそういう局面に至っても、欧州の中距離核戦力(INF)交渉のように、相互の軍備管理、削減という形で取引する機会が来ないとも限らない。この辺りのことは欧州の経験を含め良く検討しておくことが必要だろう。