上記の記事は、予想以上にサウジアラビア・イスラエルの国交樹立とその前提の米・サウジ相互防衛条約についての交渉が進んでいることを示唆している。そして、米・サウジ相互防衛条約の内容が日米安保条約に近いものになるというのは、サウジ側のイランに対する不安に鑑みれば当然の帰結だが、同時に米国はそこまでコミットしてしまって大丈夫かとも懸念される。
仮に日米安保条約をひな形とする米・サウジ相互防衛条約が実現するとすれば、日本としても色々と考えないといけない事が生じるかも知れない。まず、日本周辺も緊張が高まっているが、イランを巡る中東情勢の緊張度はその比では無く、何時、大規模武力衝突が起きてもおかしくない。
もしサウジアラビア・イラン関係で何らかの武力衝突が起き、その際、米国が条約に基づいて武力行使の様な意味のある関与を行わなければ、中東と極東は違うとは言っても、日米安保体制の信頼性に大きなダメージが生じる可能性があるのではないか。
9月20日にバイデン大統領はネタニヤフ・イスラエル首相と会談し、同21日、コーヘン・イスラエル外相は、4、5カ月後にサウジアラビアとの国交樹立の可能性があると発言した。また、同じく20日、ムハンマド皇太子は、イスラエルとの国交樹立について「日々近づいている」と発言している。サウジアラビア・イスラエル国交樹立は、急速に進んでいる様にも見える。
黙っているとは思えないイラン
しかし、次の理由から現時点では引き続き懐疑的に見ておいてよいだろう。第一に、サウジアラビアの同盟国としての信頼性、人権問題に懐疑的な米議会が米・サウジ相互防衛条約を批准するか。さらに、現在、サウジアラビアがロシアと組んで油価を高騰させており、再度、米国の物価を押し上げつつあるが、ロシアと組んで米国の国益に反しているサウジアラビアと相互防衛条約を結べるのであろうか。
第二に、「イランが核武装すれば」という前提付きではあるが、ムハンマド皇太子は、繰り返し、サウジアラビアの核武装について言及しており、米国は、核武装のおそれのあるサウジアラビアに原子力協力が行えるのか。
第三に、パレスチナ問題についてサウジアラビアの面子を立てなければならないが、ネタニヤフ首相の極右宗教政権が意味のある譲歩をするのか。
第四に、サウジアラビア・イスラエルの国交樹立は、イランの対イスラエル戦略的縦深性に大きなダメージを与えるので、イランがこのまま黙ってはいないだろう。米国による70億ドルの凍結資産の解除は、イランを大人しくさせておくことが目的だろうが、イランがそれで大人しくなるとは思われない。