2024年12月22日(日)

教養としての中東情勢

2023年10月9日

 パレスチナ自治区ガザを実行支配するイスラム組織ハマスが10月7日、電撃的なイスラエル攻撃を敢行、市民ら約700人が死亡した。イスラエル軍も空爆などで猛反撃、ガザ侵攻が切迫する全面戦争の情勢に。ユダヤ人にこれほどの犠牲が出るのは1973年の第4次中東戦争以来とみられる。なぜ今、ハマスが攻撃に踏み切ったのか、その背景と今後の展開を占った。

ハマスによる攻撃で破壊されたモスク(ロイター/アフロ)

「アルアクサの洪水」対「鉄の剣」

 ハマスの攻撃は完全にイスラエルの意表を突いた。現地からの情報を総合すると、ハマスとガザの過激派「イスラム聖戦」はイスラエルに向けたロケット弾攻撃に加え、陸、海、空からという大作戦を展開した。

 ハマスは作戦名を「アルアクサの洪水」と銘打った。アルアクサとはエルサレムの聖地「神殿の丘」(イスラム名ハラム・アッシャリーフ)にあるモスクのことだ。

 ハマスの軍事部門「カッサム旅団」はブルドーザーでイスラエルがガザとの境界に建設したレーダー付フェンスを破壊し、戦闘員をイスラエル側に送り込んだ。地中海からボートで侵入したり、パラグライダーで空から攻撃に参加したりした戦闘員もいた。

 侵入した戦闘員は300人にも上り、20カ所以上の村や基地を襲撃した。発射されたロケット弾は3000発以上に及んだ。

 イスラエル領内での戦闘はまだ続いており、射殺された住民の遺体が放置されている。一部では戦闘員が住民を人質に取って立てこもっているという。

 約150人のユダヤ人市民や兵士らが捕虜としてガザ地区に連行された。「カッサム旅団」のモハメド・デイフ隊長は攻撃がアルアクサ・モスクや自治区ヨルダン川西岸でのイスラエルの暴力に対する報復であることを明らかにした。

 イスラエル軍は住民退避に全力挙げ、反撃に転じた。ネタニヤフ首相は「戦争状態だ。報復してハマスを無力化する」と宣言、予備役を招集した。イスラエル軍は作戦を「鉄の剣(つるぎ)」と名付け、ガザ地区を猛爆撃している。パレスチナ側の死者も500人を超えた。

 一部の専門家はこの日がエジプトとシリアによる電撃作戦で始まった第4次中東戦争開戦の50周年と同じ時期に当たることを指摘し、ハマスが記念すべき日を攻撃日に選んだとしている。イスラエルにとって今回の事態は同戦争以降、最大の危機だ。米メディアはイスラエルの受けた衝撃を「米国の9・11の状況と同じ」と伝えた。


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