ニューヨークタイムズ紙は、バイデン政権の重要外交目標は、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化であり、関係正常化はアラブ・イスラエル間の緊張を緩和する意味があるのみならず、米国にとっても、サウジアラビアとの関係強化は、サウジアラビアがこれ以上中国に近づかないようにし、中国が中東に影響力を増大させることを牽制する地政学的な意義があるとする解説記事‘Biden Aids and Saudi Explore Defense Treaty Modeled After Asian Pacts’を掲載している。要旨は次の通り。
米国は、サウジアラビアと相互防衛条約について協議している。米政府関係者によれば、この条約は日本や韓国と結んでいる安保条約と似たものとなる由であるが、本件はサウジアラビアとイスラエルの国交樹立というバイデン政権の重要外交政策の焦点となっている。
この条約により、両国は相手国がサウジアラビア国内および域内で攻撃された場合に、軍事的支援を提供することを一般的に約束することになるが、北大西洋条約機構(NATO)条約を除いて日本と韓国との条約は、(米国のコミットメントが)最も強い条約である。しかし、米政府関係者によれば、米軍は、サウジアラビアには日本や韓国の様に大規模な米軍の配置を行わない見込みである。
米政府関係者によれば、サウジアラビアの事実上の支配者であるムハンマド皇太子は、イスラエルとの国交樹立についてバイデン政権と協議するに際して、この相互防衛条約が最も重要な条件と考えている由である。他方、サウジ政府関係者は、イランと関係を正常化したとはいえ、強力な防衛条約により潜在的なイランやその代理勢力からの攻撃を抑止出来ると述べている。
さらに、ムハンマド皇太子は、民生用の原子力開発への支援も要求しているが、米政府関係者は、(このサウジアラビアの要求は)イランに対抗する核兵器保有のためではないかと懸念している。
米政府関係者は、この条約はアラブ・イスラエル間の緊張を緩和する象徴的な意味があり、米国にとっても、サウジアラビアがこれ以上中国に近づかないようにし、中国が中東に影響力を増大させることを牽制する地政学的な意義があるとしている。
ムハンマド皇太子の相互防衛条約と原子力協力という難しい要求に加えてパレスチナ問題に対してイスラエルの譲歩を求めるという問題もある。ムハンマド皇太子自身は、パレスチナ問題について余り語らないが、父親のサルマン国王は、パレスチナ人の権利に対する強い支持者である。また、米国の一部の中東専門家は、バイデン政権に対してイスラエル政府に政治的勝利を与え、政権を長続きさせるような取引をするべきではないと要求している。