2024年5月19日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年9月22日

 2023年8月30日付のフォーリン・ポリシー誌で、サーブ中東研究所上級フェローらは、サウジアラビアがイスラエルと関係正常化すれば、イランはサウジアラビアがイスラエルによるイランの核施設攻撃を助けると考えてサウジアラビアを懲罰し、サウジ側は、米国との軍事同盟がイランの攻撃を抑止すると考えるかもしれないが、米国はサウジアラビアのためにイランと戦争する用意があるかよく考えるべきだと論じている。

(bombardir/OlenaGo/werbeantrieb/gettyimages)

 米国と中東では、サウジアラビアがイスラエルと関係を正常化する可能性について議論されている。関係正常化の見返りの一つは、米国がサウジアラビアと正式な防衛条約を結ぶ事だが、これは、サウジアラビアが最近、イランと結んだ関係正常化の合意を危うくするだろう。

 イランはイスラエルと敵対関係にあるだけでなく、長年「戦争」の状態にあるからである。17年にはイスラエル軍はシリア他の中東でイランとその代理勢力に400回以上の空爆を行っている。

 仮にサウジアラビアがイスラエルを受け入れれば、イランはサウジアラビアに対してあらゆる事をするだろう。19年にサウジの石油施設を攻撃したように、直接的またはイエメンのホーシー派等の代理勢力を利用してサウジアラビアの安全を脅かすかもしれない。

 イランはサウジアラビアが米国と友好関係にある事は受け入れているが、イランに対して武力行使を躊躇しないイスラエルと関係を結ぶのは別の話である。また、イランは、その核施設に対する攻撃をイスラエルが行うことを恐れ、関係正常化によってサウジアラビアがイスラエルに便宜を図ると考えている。

 イスラエルとの関係正常化によりサウジアラビアが失うものは大きい。イスラエルとパレスチナが争っている「エルサレム問題」は、イスラム世界にとって重要な宗教的関心事である。もし、サウジアラビアがエルサレムを諦めるならば、イランは、サウド家に対して激しい政治的圧力を掛けるであろう。

 いずれにせよ、サウジアラビアがイスラエルとイランの双方と関係正常化は出来ない。仮にイランが、サウジとイスラエルとの関係正常化を理由にサウジを懲罰するならば、米国は、サウジアラビアのためにイランと戦争するだろうか。さらに、イランが代理勢力を使う場合、米国はどうするのか。簡単な答えは無い。

 サウジ側は、防衛条約を期待している。サウジアラビアと米国は、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化に対するイラン側の対応についてよくよく意見を聞いた方が良い。もちろん、イランの反応を恐れてこの条約を思い止まるべきでは無いが、米国もサウジアラビアも慎重に進めるべきである。

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