2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年9月22日

 最近、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化の観測が高まっているが、正常化する場合、サウジアラビアがイスラエルによるイランの核施設攻撃に手を貸さない様に、イランがサウジアラビアに対してテロ等で警告するのは必至だろう。故に、サウジアラビアが見返りとして、イランの攻撃を抑止するために米国との軍事同盟を要求し、米国がイランとの戦争に巻き込まれることを恐れて躊躇しているというのも有りえる。

米国は中国の関与を意識

 しかし、良く考えるとサウジアラビア・イスラエルの関係正常化は、中東から米軍が撤退する代わりにアラブ諸国がイスラエルと協力してイランの脅威を抑止するというトランプ政権時の戦略から始まった訳であり、サウジアラビアと軍事同盟を結ぶことはそもそもの戦略に逆行している。それにも関わらず、この話が出てくるのは、来年の米大統領選挙をにらんだユダヤ人票の取り込みのためであろうか。

 もう一つ考えられる要因は、中国の中東地域への影響力の拡大である。サウジアラビアとイランの関係正常化の仲介をしたのが中国であると言われているし、現に23年8月の南アフリカで開催されたブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国(BRICS)の首脳会議で、サウジアラビアとイランが同時に新規加盟を認められたのは、習近平の後押しが大きかったとされる。

 米国の影響力の後退が生じた中東の「力の真空」に中国が入って来たことに対し、米中新冷戦において、米国が改めて、場合によってはイスラエルを介して、その影響力を戻して、「勢力均衡」させようと考える戦略があっても不思議ではないだろう。

 一方、イスラエルとの関係正常化に際してのパレスチナ問題への対応如何では、サウジアラビアの権威や正統性に大きく傷が付くのは確かであるが、現在のイスラエルのネタニヤフ極右宗教政権がサウジ側の面子が立つ様な譲歩をするとは思われない。その点、サウジアラビアとしては、当然、対イラン抑止戦略として、米国との防衛条約が必要になってくる。

 一つ気になるのは、上記の論説では、関係正常化の見返りとして、米国とサウジアラビアの防衛条約には触れているが、もう一つの見返りとして噂されている米国のサウジアラビアの原子力開発への協力について言及が無いことである。ムハンマド皇太子が「仮にイランが核武装すれば」という条件付きとは言え、核兵器保有について公言しており、この話はどうなっているのだろうか。アジア同様、中東地域においても、核の傘(拡大抑止)、核シェアリング等が議論されることになるのだろう。

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