米国と中央アジア5カ国による史上初の首脳会談(C5+1)は、9月19日に開催された。会談後バイデンは、主権、独立、領土保全に関する原則はこれまで以上に重要であるとし、この地域での今後の協力の方向性として(1)テロ対策の強化、(2)民間部門が開発に貢献できるための新たなビジネス・プラットフォームの設立とエネルギー安全保障とサプライチェーン強化のための重要鉱物資源に関する新たな対話の可能性、(3)障害者の権利に関する新たなイニシアティブの3点を成果として列挙する簡単な声明を発表した。
(1)のテロ対策については既にこれまで国境警備に関する支援を行ってきており、(2)の鉱物資源に関する対話は注目されるがこれからその可能性を議論するということに過ぎない。カザフスタンとの二国間の首脳会談であればもう少し踏み込んだ成果の発表もあり得たかもしれないが、歴史的な首脳会談の成果としてはいかにも地味に見える。
特に、本年5月に中国が西安で主催した中国・中央アジア・サミットにおいて、習近平が38億ドルの経済支援を行う旨発表し、共同宣言と成果リストを発表し、100を超える協議文書が署名されたこととは比較しようもない。また、習近平は、別途5人の大統領との個別会談も行った。
上記の論説は、地域のリーダー国であるカザフスタンの政治改革を支持すべしと論じているが、注意すべきは他の4カ国大統領はこれをモデルとは考えているわけではなく、むしろカザフスタンの民主化への動きによりその孤立を招きかねないことであろう。
また、論説は、カスピ海経由の大回廊の構築を米国が支持すべきだと言う。確かに、ウクライナ戦争の影響で、ロシア南部経由の輸送ルートやパイプラインが機能不全となり、カザフスタンの繁栄にとりカスピ海中央回廊の重要性は増している。しかし、これは中国にとってはまさに一帯一路の大動脈にあたる部分であるので、米国の関与は容易ではないだろう。
米国にとってより重要なのは、この地域の鉱物資源であり、またカザフスタン側は、同国経済に貢献する何らかの投資をしてもらいたいというところだろう。それがバイデンの記者発表にも反映された今後の方向性であろう。
中国・ロシアにいかに対抗するか
論説は、米露関係においてカザフスタンの何らかの役割が期待できると示唆しているが、プーチンとトカエフの関係は相当悪化しており、ウクライナでの停戦や戦後秩序に対する貢献も当面期待できるとは思えない。
中央アジア諸国は、欧米の投資は歓迎するであろうが、ロシアの拡張主義に対する警戒感と、過度の中国への依存も避けたいという構図の中で、そのバランスをとる限度で欧米との関係緊密化を求めているのである。米国としてはそのような機会を何とか最大限に生かして関係を強化していくことが重要である。
上記の論説はやや楽観的に過ぎ、そう簡単に成果は期待できないように思われる。いずれにしても、米国が中央アジア外交に積極的に向き合おうとしていることは、地政学的なバランスから言えば大変良いことであるのは間違いない。