2024年5月20日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年10月19日

 この記事が挙げている論拠は、韓国が北朝鮮の核の脅威にさらされており、さらに、中国、ロシアという核兵器国に囲まれていることである。これは、年来、米国の論者が国際政治理論におけるリアリズムの考え方に基づいて日本が核保有に向かうと主張してきたことと共通する。

 そうした力学が一定程度働くことは確かだが、そうした力学だけで物事が決まるわけではない。こうした考え方は、国際政治が「力」の論理で動いており、脅威に対して自ら対抗手段を持とうとすることを前提とするが、国際政治において「ルール」が果たす役割を軽視している。

 この記事は、前記の論理と世論調査等から、韓国が核保有に向かう可能性を強調しているが、仮に韓国が核保有に向かう場合の帰結については末尾で簡単に触れるに止まっている。仮に韓国が核保有に向かう場合、二つの強い逆風にさらされるであろう。

 第一は、国際的扱いである。北朝鮮とイランは、核開発によって国連安保理での制裁を受けてきた。現在の国際社会では、NPT(核不拡散条約)は普遍的な規範とされ、新たに核開発を行おうとする国を制裁してきた。韓国がそれをすることは、韓国がこれまで北朝鮮に浴びせてきた批判、非難が自らに返ってくることになる。

 第二は、米国との関係である。米国は、同盟戦略と核不拡散・原子力政策の双方の観点から、韓国の核保有を阻止しようとするだろう。米国は従来通りの同盟関係の維持と核保有の両立を許すほど甘くはないだろう。また、韓国は電力の3割を原子力に依存しているが、それを支えているのは米韓原子力協定等である。

 もし韓国が核開発に向かえば、韓国の原子力発電は大きな困難に直面するだろう。更に、韓国はたとえ核保有を決意したとしても、北朝鮮に対抗しうる核態勢を構築するためには時間を要するので、その間、米国との関係が壊れている韓国は脆弱性の高い状況となってしまう。

韓国が持つ米国への不安

 これらはいずれも「ルール」からはずれる場合、厳しい帰結を伴わざるを得ないということである。一方、「ルール」があるからといってそれだけで安心はできない。

 ロシア・ウクライナ戦争は「ルール」が破られることを示した。「ルール」が守られるためには「力」の役割が大きい。

 韓国で核保有への関心が高まる背景に、米国における内向き傾向、対外関与についての党派的分断等への不安感があるのは間違いなかろう。韓国が1970年代に核開発に向かおうとしたのが1969年のニクソン・ドクトリンによる在韓米軍縮小方針を受けての動きであったこと、現在の動きがトランプ政権の同盟軽視後に高まっていることは示唆的である。

 この解説記事の意図として、韓国が核保有に向かわないように米国が拡大抑止をしっかりと機能させることを訴えることにあるのだとすれば、それには賛成である。

 北東アジアにおける核の脅威、安全保障上の課題にどう対応するかについて、日本は多くの点で韓国と似た立場にあるので、上記の記事は参考になる。しかし、日本の場合、韓国と根本的に異なるのは、「唯一の被爆国」としての核アレルギーがひどく、核を議論することさえままならず、まして世論調査で半数以上が核保有を支持するなど考えられない。

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