2024年7月16日(火)

WEDGE REPORT

2023年10月20日

台湾でも多い、職場からの失踪

 台湾の外国人労働者には転籍が認められる。ただし、好き勝手に職場を変われるわけではなく、本人と就労先、新たな雇用主の合意が必要だ。日本の実習生も、就労先に問題があれば転籍はできる。米国務省が指摘する「転籍」問題に関し、実際には台湾と日本に大きな差はない。

 その証拠に、台湾も外国人労働者をめぐって日本と同じ問題に直面している。職場からの失踪だ。

 筆者が台湾内政部移民署から入手した資料によれば、職場から失踪した外国人労働者は昨年1年間で4万1203人に上っている。前年の2万660人から2倍の増加である。とりわけベトナム人は3万4394人と、全体の83%を占めた。当時のベトナム人労働者の約7人に1人が失踪しているのだ。

 日本でも実習生の失踪が問題になり続けている。昨年は9006人が失踪していたことが判明し、先日ニュースとなったばかりだ。ただし、実習生が失踪する割合は、台湾の外国人労働者よりもずっと少ない。

 もちろん、失踪には「人権侵害」以外の原因もある。とはいえ、台灣で働く外国人の失踪の多さは、彼らの就労環境が決して理想的なものではないことを物語る。にもかかわらず、台湾は国際的に評価される。その理由の一端を、私は今回の会議で学ぶことになった。

 2日間にわたったワークショップは4部構成で、台湾で働く外国人の「介護士」や「船員」などがテーマとなった。いずれも就労環境の問題が頻繁に指摘される外国人労働者だ。そして私が参加したのが、「留学生」をテーマにした部会である。

 台湾では近年、留学生をめぐって人身売買が疑われるケースが増えている。今年の米国務省報告書でもこう指摘してある。

<非営利団体によれば、数多くの営利目的の大学が積極的に留学生を受け入れ、教育機会を提供するとしながら搾取的な労働環境を強いている>

 そんな事例の一つが、台湾検察当局の担当者から部会で報告された。その概要はこうだ。

留学をエサに過重労働を課す

 2022年1月、台湾のインターネットメディアの調査報道によって、16人のウガンダ人が「留学」をエサに台湾へ連れて来られた後、工場での夜勤労働を強いられていることが判明した。ブローカーはウガンダ人たちの留学先となった大学の幹部で、貸しつけた留学費用を返済させるため、台湾で留学生に許される「週20時間」を超えて働かせていた。その後、当局の捜査を経て幹部は逮捕されている。

 似たケースは、スリランカやインドネシア出身の留学生たちにも起きている。いずれも大学側が約束した奨学金を支払わず、留学生に不法就労を強いていた。

 台湾の留学生数は2013年時点では8万人にも満たなかった。それがコロナ禍前には13万人近くまで増えた。政府が留学生を増やす政策を進めた結果だが、その過程で<営利目的の大学>が蔓延っていくのである。

 その後、コロナ禍の影響で、台湾の留学生は約9万人まで急減した。そこに追い打ちをかけたのが中国との関係悪化だ。中国は2020年以降、台湾への留学生送り出しを停止している。

 留学生への依存を強めていた大学には大打撃だ。政府が主導し、なりふり構わず留学生を増やす方法もなくはない。似た状況に直面し、それをやったのが日本である。

 日本政府は2008年に「留学生30万人計画」を策定し、20年までに留学生を倍増させようとした。しかし、11年に東京電力福島第一原発事故が起きると、留学生が減り始める。留学生の6割以上を占める中国人が、自国の経済発展によって日本から遠ざかるようになったことも影響した。


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