今年2月27日『朝日新聞』電子版に載った同紙の調査を見ると、直近の選挙が無投票で決した地方議会の割合は15パーセントを上回っている。その割合は近年上昇し続けていることを考えると、今回の統一地方選では、さらに「無投票」選挙が増える可能性が高い。
地方の小規模な自治体では、議員のなり手不足が「無投票」を招いている。前回2019年の統一地方選で実施された375の町村議会議員選のうち、23パーセントに当たる93の自治体で定数を超える立候補がなく、無投票で全員の当選が決まった。
町村議員に関しては、高齢化も著しい。全国町村議会議長会が今年3月にまとめた「町村議会実態調査結果の概要」によれば、昨年7月時点で全国1万695人に上る町村議の8割近くが60歳以上なのだという。平均年齢は65・2歳に達し、市議会議員の60歳、衆議院議員の55•5歳(2021年衆院選の当選時)よりも高い。
自治体の規模に関わらず、議員には住民を代表して行政を監視する役割がある。なり手不足は、監視機能の低下につながる。また、高齢の議員ばかりが増えれば、若い世代の声が行政に反映されなくなってしまう。どうすれば「なり手不足」と「高齢化」は解消するのか。
理想と現実のギャップ
現在、ビルメンテナンス会社でサラリーマンをしている塔村俊介さん(42)には、生まれ故郷の島根県奥出雲町で2期にわたって町議を務めた経験がある。
塔村さんは京都大学工学部を卒業後、東京の不動産関連会社で働いていた。だが、帰省するたび故郷の衰退が気になった。山間部に位置し、人口1万2000足らずの奥出雲町は、当時から「過疎」と「高齢化」という地方の多くの自治体が抱える問題に直面していた。
「東京にいる場合じゃない。町の役にたちたい」
そんな一念で塔村さんは会社を辞め、松下政経塾に入って3年間学んだ。政経塾は、野田佳彦元首相(現・立憲民主党衆院議員)や自民党の高市早苗・経済安全保障担当大臣らを輩出していることでも知られる政治家養成機関だ。卒塾後、いきなり国政選挙に立候補する出身者も少なくないが、塔村さんが選んだのは奥出雲の町議選だった。
定数16(現在は14)に20人が立候補した2009年の町議選で、塔村さんは654票を得て第3位で当選した。だが、当選してすぐ現実を思い知る。
塔村さんが初当選した頃、奥出雲の議員報酬は月18万円だった。議員年金(後に廃止)や健康保険料などを支払うと、手元には12万〜13万円しか残らない。
政経塾では2年次までは月20万円、3年次には月25万円の給与に加え、年150万円の活動費も支給されていた。町議としての収入は、政経塾当時の半分にも満たなかったのだ。
「もちろん、報酬の額は立候補する前から知っていました。でも、実際に議員となってみるとやはり厳しい。当時は独身でしたが。この収入では結婚は無理だなと思いました」
塔村さんは29歳だった。次に若い町議は、父親世代の58歳である。議員の中には、地元のJAを定年退職して選挙に出ていた人が何人もいたという。年金をもらうまでの“つなぎ”で町議をやっているのだ。
だが、塔村さんのような「現役世代」にとっては、議員報酬1本で生活することは難しい。塔村さんも2期目に入る頃から、副業で学習塾を始めることになる。
「奥出雲町には今14人の町議がいますが、定数は5人程度に減らし、報酬を月50万円まで引き上げるべきだと思います。報酬が上がれば、住民のためにより働いてくれる人が選挙に出て、住民もより真剣に議員を選ぶようになる」
町村議の報酬は、全国平均で月21万6902円である。一方、全国市議会議長会が昨年8月に公表した調査によれば、市議の報酬は平均で月42・3万円と、町村議の約2倍だ。ただし、人口5万人未満の市が月33・4万円であるのに対し、50万人以上だと月72・1万円と、自治体の規模によって差が大きい。政令指定都市になると、横浜市のように報酬が月95・3万円という自治体もある。