外国人労働者の借金
台湾の外国人労働者の賃金は上がり続け、仲介手数料も安い。一見、日本よりも恵まれているようだが、台灣にも日本と共通する問題がある。それは、ベトナム人労働者が入国時に背負う借金だ。
日本にやってくるベトナム人実習生は、母国の送り出し業者に支払う手数料を借金で工面する。金額は100万円前後に達し、他国出身の実習生と比べて最も多い。来日後に働いて返済していくことになるが、実習生の賃金は高くない。だから手っ取り早く稼ごうと職場から逃げ、不法就労に走る実習生が現れる。昨年1年間で失踪した実習生は9006人に上ったが、そのうち3分の2以上の6016人はベトナム人だった。
台湾の状況も日本と似ている。現地で製造業の工場に外国人労働者を斡旋している業者幹部が言う。
「台湾の外国人労働者も、
台湾では昨年1年間で4万人以上の外国人労働者が職場から失踪した。うち83%がベトナム人だ。ベトナム人は外国人労働者全体の35%なので、割合で見ても高い。日本の実習生と同様、やはり「借金」が影響していると見られる。
現在、日本では技能実習制度の見直しが有識者会議で議論されている。同制度を廃止し、新たな制度をつくる案も出ているようだが、看板のすげ替えで終わっては意味がない。重要なポイントの一つが、ベトナム人を始めとする人材が、借金を背負わず来日できる仕組みをつくることである。借金問題に対し、実効性ある見直しがなされるのかどうか注目に値する。
台湾を始め日本と人材の獲得を争う国々では、今後も賃金は上がり続けていく可能性が高い。為替相場の動向次第では、出稼ぎ先としての日本の魅力はいっそう低下する。そのとき人材を確保したいのなら、日本も賃金を上げていくしかない。
それは日本人のためでもある。しかし産業界としては、低賃金で雇用できる外国人労働者が欲しい。日本が外国人の出稼ぎ先としての競争力を失う中、労働者の数を確保しようと、受け入れ条件の緩和を求める声が強まることも想定される。その声に押され、政府が受け入れのハードルを下げれば、人材の質が悪化するだけでなく、肝心の賃金上昇が抑えられてしまう。
そうなると日本人の働き手がさらに集まらず、外国人頼みがいっそう進む。台湾の住み込み介護のように「外国人しかやらない仕事」が日本でも生まれかねない。そして賃金が上がらない、という悪循環に陥ってしまうのだ。
台湾は覚悟を決め、介護を外国人に任せた。結果、今のところは「低価格の住み込み介護サービス」を享受できている。しかし、台湾人が介護の仕事に戻ってくることは将来もないだろう。そんな仕事を日本でもつくるべきなのだろうか。