論客の事業家に聞く貧労の生活実態
9月13日。折からの大雨。ソウル郊外の河南市の幹線道路沿いのコンビニでランチ。雨宿りがてらコンビニのオーナーの一族であるP氏と歓談。
P氏は英語が上手い。子供のころ実家が商売をしていたので時間つぶしにラジオで駐留米軍放送を聞いて英語を覚え、学生時代に米国留学したという。現在は自分でいくつか事業を展開しているという論客である。
幹線道路沿いのコンビニは繁盛店であり毎日大量の廃棄段ボールが出る。近隣の老人が毎日この段ボールを集めに朝夕来るという。P氏によると段ボール集めは韓国の悲惨な老後のシンボルであるという。
ちなみに、少し古いが2021年の韓国統計庁の調査によると韓国では65歳~79歳の4割強が就業している。就業の最大の理由は“生活費の補填”。60~79歳の年金受給者の割合は65%。受給者の月間平均受給額は64万ウオン(=7万5000円)。物価が日本よりも高い韓国では年金だけで生活するのは不可能という水準である。
年金受給者でも元公務員や大企業従業員などは生活に支障がないが、元零細企業従業員や元自営業など相当数の老人は月20万ウオン(=2万4000円)以下という。
清潔な韓国の公共トイレは老人たちにより維持管理されている
80日間韓国を自転車旅行して感心したのは公共トイレである。筆者の個人的感想であるが、平均して日本の公園のトイレより清潔でよく管理されている。ニュージーランドと比較しても韓国の公共トイレに軍配が上がるレベルだ。
7月17日・18日。雨のため忠清南道論山市の灌燭寺近くの公園の東屋にテントを設営して2泊した。トイレが清潔でお湯も出たので髪をシャンプーして髭を剃った。さっぱりして東屋に戻ると自転車に乗った男性が声をかけてきた。
彼は75歳で近所に住んでいるという。自転車にスピーカーを付けて韓国演歌を聞きながら走ってきた。飄々とした御仁で筆者のテントやキャンプ用品についてあれこれ質問。それから公共トイレに向かい、いきなりホースとデッキブラシで掃除を始めた。彼は自治体から委託を受けた清掃係りだったのだ。翌日も同様に早朝に自転車でふらりと現われ清掃して帰って行った。
各地の公共トイレにお世話になったが清掃人は60~70代と思われる世代が大半。男女の割合は概ね1:4くらいで女性が多かった。前述の韓国統計庁の数字による65~79歳の4割超が就業しているというが公共トイレの清掃のように短時間の就労も含まれているのだろう。
夕暮れに段ボールを運ぶ老人の群れ
上述のP氏によると韓国では段ボール紙(コルパンジ)を回収して業者に持ち込み換金する“段ボール拾い”が貧しい老人の現金収入を得る手段として全国的に広く行われている。日本でホームレスの人たちがアルミ飲料缶を集めて現金収入を得ているのと同じ構図のようだ。
P氏の話を聞いてから少し注意して自転車を走らせていると、確かに早朝や夕刻に段ボール拾いの老人を頻繁に見かける。男女別ではほぼ半々くらいだ。古びた手押し車や錆びたリヤカーに段ボールを載せてのろのろ移動している。腰が曲がって歩くのもやっとという老人も少なくない。大雨の日でもビニールで段ボールを覆って運んでいる。
9月14日。金浦空港から20キロくらい北上した市街区の外れの日暮れ時。夕闇が迫る中、とぼとぼと段ボールを運ぶ老人たちの姿が薄暗い街路灯のもと点々と連なっていた。彼らは産業廃棄物や資源ゴミの回収業者の集積所に向かっていたのだ。集積所では裸電球の下で業者の男が段ボールの重さを計っては老人に現金を手渡していた。
韓国の老人を取り巻く状況は驚くほど日本と共通点が多いように思った。両国の専門家が大いに交流して老人福祉の諸制度を改善することを望む次第である。
以上 第4回に続く