合同結婚式から二十数年、地方都市で家族と幸せに暮らす日本女性
7月中旬、日本人女性と知り合った。驚いたことに彼女は二十数年前に合同結婚式で現在の夫となる韓国人男性と結婚したという旧統一教会(現世界統一平和家庭連合)の信者であった。同じ信仰を持つ夫との間に3人の子どもを育て幸せな家庭を築いていた。そして夫婦は現在も信仰を守っているという。経済的にも比較的に恵まれた生活をしているようだ。
日本での旧統一教会を巡る批判はニュースで聞いているが、韓国内では世界平和統一家庭連合に対して批判的な動きはないという。ちなみに筆者自身韓国滞在中にキリスト教会一般については後述するように、さまざまな批判や疑問を聞いたが、世界平和統一家庭連合について特別に問題視する意見はなかった。筆者の印象ではキリスト教会の一つとして韓国社会では容認されているようだった。
彼女の実家では誰も旧統一教会の信者はおらず、自身は学生時代から人生について考えるうちに旧統一教会に興味を抱いたという。また韓国人の旦那さんも家族には信者がおらず自分の意志で入信したという。
第二次大戦後に世界で最もキリスト教布教が成功した韓国
カトリック教会の総本山であるバチカンが第二次大戦後に最も布教が成功した国として韓国を挙げていたことを思い出した。2015年夏にスペイン巡礼街道を歩いていた時に巡礼宿で知り合った全羅北道全州市の教会の朴牧師(モクサ)は、韓国民の40%近くがキリスト教徒で仏教徒が30%程度、キリスト教徒のうちプロテスタントが6割でカトリックが4割と語っていた。朝鮮戦争後に米国など海外の教団の布教によりキリスト教徒が増えたという。
他方で韓国統計庁(2015年)によると仏教15%、プロテスタント19%、カトリック8%とのこと。朴牧師の数字とかなり乖離がある。今回の旅行中に現地の人から聞いた数字はむしろ朴牧師の認識に近かった。ちなみに宗教ではないが、筆者の印象では儒教が現在でも広く社会規範や生活習慣のなかに生きていると感じた。
韓国は全国津々浦々キリスト教会だらけ、なぜ?
9年前の釜山起点の自転車旅行でも今回の旅でも韓国では、都市はおろか田舎でもキリスト教会だらけでしかも立派で豪華すぎると違和感を覚えた。25年前、出張の合間に訪れたパキスタンのインダス文明の古代遺跡モヘンジョダロで、単独世界一周旅行途上の26歳のソウル出身の聡明な韓国女性に遭遇した。
なぜ韓国に教会が多いのか彼女の説明は明快だった。第一に教会は免税特典が広く、成金や商人が税金逃れや財産隠しに教会を設立している。第二に十字架を屋根に掲げることで北朝鮮の攻撃目標にならない。第三に牧師になるのに特別の資格・経験は問われないので誰でも教会を設立できる。25年後の現在ではどうなのだろうか?
7月18日。論山市の東屋に韓国人一家が雨宿りに飛び込んできた。奥さんは高校で日本語教師をしているという。彼女によると旧統一教会は韓国では少し変わった教団と世間に思われている程度で韓国社会では特に問題になっていない。
むしろキリスト教会すべてが金権体質なのが問題であると痛烈に批判。韓国にやたらと教会が多くて建物が分不相応に立派なのは、教会の免税特権と信者から収入の1割を徴収する制度だという。聖書に「収穫の十分の一は神に捧げるべし」と書いてあるそうだ。韓国では『庭に十字架を立てれば2年で教会が建つ』、すなわち教会を開業すれば2年で立派な教会を建てられると言われているという。それほど“儲かる業界”らしい。
高校の世界史の教科書を思い出した。中世の教会権力の源泉として“十分の一税”が農民や市民を縛っていたが、フランス革命によって教会の課税権は剥奪されて、政教分離が近代社会の原則となったという歴史上の大変革だ。なんと現代韓国ではキリスト教会は中世ヨーロッパと変わらないのだ。
7月20日。日本人女性と知り合った。彼女はキリスト教徒ではないが、十分の一の寄付については余りにも韓国では当然でフツウのことなので、今まで疑問を感じたこともなかったという。日本や欧米でも同じように信者は寄付しているものだと思い込んでいたという。
彼女によれば毎月収入の10%を徴収するだけでなく、教会は祭事・行事・建物修繕にかこつけて頻繁に寄付を募るという。教会は信者の保有資産・収入に応じて寄付額を割り当て未納者・滞納者は掲示板に張り出すなどして督促するという。
7月30日。光州市内で会った米国人の英語補助教員のカップルであるマイクとパティ―の2人は「そもそも収入の10%を徴収すること自体が間違っている。アメリカでは聞いたことがない」と韓国の教会の前近代的運営を批判した。なぜ韓国の人々はそんな教会に通い続けるのか不思議に感じた。