知日派知識人に聞く
韓国におけるキリスト教の歴史的背景と現在の信者獲得競争
7月27日。ソウルから故郷にUターンした日本の大学に留学経験のある論客K氏にキリスト教会について見解を伺った。
K氏は現代韓国のキリスト教会の問題を考察するには李氏朝鮮王朝を理解する必要があると指摘。14世紀末李成桂に始まる李氏朝鮮王朝は儒学・儒教を支配原理として王朝を建国した。前身の高麗王朝が仏教を厚く保護したことに対抗して仏教を排斥して儒学を保護したという流れである。
儒教に基づく身分制度により主従関係を明確にして王家の下に両班という貴族階級を文官・武官として官僚組織を形成した。こうした徹底した身分制度の下で農民など庶民は下層身分として差別された。
李氏朝鮮の支配体制が欧米列強や日本の外圧により揺らいでくると欧米の教団によるキリスト教の布教が広がった。すべての人間は平等であると説くキリスト教は身分制度に苦しむ民衆から歓迎された。他方で李氏朝鮮は王朝末期まで儒教に反するとしてキリスト教を禁止して徳川幕府同様の“踏み絵”を実施した。
日本植民地体制でもキリスト教団は伝統的な地場信仰の“現世利益”を教義に取り込んで庶民の信者を増やしていった。朝鮮戦争で伝統的価値観が崩壊した後に欧米の教団が食料・医療・病院という福祉を携えて布教した。特に米国のプロテスタント系教団が資金力を背景に活発に活動して信者を増やした。
高度成長期の韓国人教会の台頭から少子高齢化と若者の教会離れへ
高度成長期に入ると外国人宣教師に代わって韓国人牧師が教会運営を担うようになった。韓国人牧師は聖書の言葉を利用して信者から収入の10%を徴収して、他方で免税特権を利用して蓄財した。こうして信者を拡大して教会は外見的には立派になった。
ところが近年急激な少子高齢化の進行で若者人口が減少。MZ世代の台頭により価値観の乖離から若者の教会離れが顕著となってきた。こうして現在では教会同士の信者の争奪戦が激化しているとK氏は指摘した。
現に筆者も南原や済州島など地方都市で宣教活動している人々から「仏教徒でも構いません。ぜひ今夕の集会に来てください。人生が変わりますよ」「明日の日曜礼拝に遊びに来てください。もし無理ならメルアドとお名前をお願いします」などと熱心に勧誘を受けた。
K氏はキリスト教徒でありソウルでは教会に通っていた。故郷の南原に戻ってきたときに小さな教会に短期間通ったが牧師の拝金主義に疑問を感じて教会と縁を切った。例えば牧師は退職時に家・自家用車などをもらえる。牧師の年金は一般の年金受給額に比較して約2倍という高額らしい。
K氏は教会に属さないキリスト教徒であるという。欧米同様に韓国も若者を中心にキリスト教徒の教会離れが進んでいるという。
以上 第3回に続く