2024年5月3日(金)

古希バックパッカー海外放浪記

2023年10月29日

『2023.7.3~9.20 80日間 総費用26万円(優待航空券1万5000円含む)』

韓国の津々浦々にある“東屋”は地元老人のコミニュティー・センター

POSCOの最新鋭の光陽製鉄所近くの河口の東屋。 光陽製鉄所が打ち上げる花火が見えた

 韓国を自転車旅行していると人が住んでいるところには必ず東屋があることに気づく。地域住民の憩いの場として町内会や村落会が建てた東屋に三々五々と中高年が集まりおしゃべりしながらお茶をしている。夕暮れ時になるとビールやマッコリ(濁り酒)などを飲みながら花札賭博する中高年男性の溜り場になっていることもある。東屋は韓国庶民の身近なコミュニティー・センターである。

 自転車キャンプ旅の大敵は雨である。テント・寝袋・エアーマットなどが少しでも濡れてしまうと重くなる。湿った寝袋やエアーマットで眠るのは最悪である。雨期や長雨の時期は一旦濡れると乾かせないのでテント設営場所の選定は死活問題である。

 屋根の大きな東屋は降雨が防げるし、高床なのでテントに地面から雨水が浸水する恐れもない。それゆえ毎日夕刻になると東屋を探して自転車を走らせていたので韓国の東屋事情にはかなり精通していると自負する。

漢江の河川敷のパークゴルフ場。パークゴルフは中高年に大人気で夜明け前に自家用車で集まってくる。夜明けから涼しい9時ころまでプレーする

知識人に聞く韓国の老後事情、地方の老人のほうが幸福

 7月27日。全羅北道の南原市で日韓両国の諸事情に精通するK氏から韓国の老人福祉について話を聞いた。韓国では経済活動全般で人手不足が深刻であるが、介護の分野では外国人労働者を導入するという動きはないという。一つには介護関係の賃金水準が他の業種に比較してそれほど悪くないという背景があるという。ちなみにネット情報では韓国の介護職平均月給34万7000円、平均時給1670円(ウオン=0.118円)とある。

 そしてソウルなどの大都市と地方ではかなり事情が異なるという。大都市ではそもそも人手不足が深刻で独居老人にまで手が回らない。都市部では介護の仕事は若い人には敬遠されるので50~60歳くらいの中年女性が担い手の中心になっているという。

 韓国は伝統的儒教の影響で看取るまで老親を自宅で介護するのが当然であったが、都市化・核家族化により大きく変わってきたという。都市部では日本同様に老人のケアはデイサービスから始まり、訪問介護、そして最終的には老人ホームへの入居に移行してゆくのが現在では一般的という。

 老人ホームは公立と私立があるが公立は利用料金が安い代わりにサービス水準が劣り、巷間“公立老人ホームに入れば2年であの世に行く”と言われているとのこと。

 一般に都市部より田舎の老人のほうが元気で幸福度が高いという。地域のコミュニティーで一緒に遊ぶ昔からの仲間がいるからだ。こうした仲間と上記のような東屋や“集落会館”(マウル・フェグアン:集落の住民が集まる会館)で時間を過ごす。集落会館は行政組織の末端の役割も担っており政府から地元自治体経由で集落会館に補助金が交付される。食事会や各種行事に補助金が活用される。筆者も自転車で走りながら各地の集落会館で冷水をもらったり、トイレを借りたり、酷暑の日中にエアコンで涼むために度々お邪魔した。

 会館よりも大きな施設として老人福祉会館がある。各集落から無料バスで老人福祉会館に送迎している自治体もある。老人福祉会館では各種の老人の趣味のクラブが活動しており、色々な習い事や健康増進のプログラムが提供される。日本の市町村の老人福祉クラブと似たような役割を果たしているようだ。

和順の介護付き老人ホーム

和順の東屋にお一人様テント設営。右側のグレーのカバーで覆われているのがちびチャリ。夜中にパトカーが来て若い2人の警官が筆者の安否確認してからスマホの翻訳を見ながら日本語で「ゆっくりおやすみください」と最敬礼した。やはり韓国の警察は素晴らしい

 8月3日。全羅南道の和順は世界遺産に登録された支石墓群(コインドル)がある地方都市。和順の郊外に介護付き老人ホームがあった。コロナ対策で中には入れなかったので玄関で話を聞いた。

 施設長はアラフォーの女性。現在入居者は50人。介護職員は20~30代の若手の男女が12人、40~50代の女性が8人。その他に調理や清掃の職員・アルバイトがいるという。介護職員は年齢構成のバランスが取れており、行き届いたサービスが提供できていると自負しているとのこと。外国人女性の導入は言葉や文化の違いの問題もあり“ありえない”と言下に否定した。

 ちょうど午後のプログラムが始まった。音楽に合わせて体を動かすというプログラムには25人くらいが参加していた。ロビーには入居者が作った造花がボードに飾られており、建物は新しくはないが室内は清掃が行き届き良く整理整頓されているという印象。

 実母が入居している東京近郊の介護施設では常に介護スタッフ不足で退職者が多く、頻繁に担当が変わり、施設長ですら気ぜわしく走り回っている状況と比較してしまった。

江華島の郷校(李氏朝鮮時代の地域の儒学の学校)の秋の例大祭。儒教の伝統は現在に引き継がれているが参加者は中高年ばかりだ。儒教は「親に孝」と説くが親を自宅で最期まで看取るのは稀だ

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