最後に残る難問が、攻撃側の国家がデジタルエンブレムの有無を確認し、エンブレムがあった場合に果たして、本当にそのシステムを攻撃の対象から外すのかというものである。国際人道法はさまざまな制限をかけているが、それはあくまで各国家の自制を求めるものであり、外部から強制する力はない。
本記事執筆時点でも、パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとイスラエルの軍事衝突を巡って、イスラエル軍のガザへの空爆などが国際人道法に反しているという議論が巻き起こっている。国連事務総長から「明白な国際人道法違反である」とし停戦を求められても、イスラエルがその求めに応じる気配はない。デジタルエンブレムについて、エンブレムを持つシステムが、軍事作戦の対象から外れるという期待は世間知らずではないかという批判がつきまとっている。
それでも諦めてはいけない
それらの課題を認識した上で、やはりサイバー攻撃を巡る国際的なルール形成に参加する価値は大きいと考える。それは日本という国の安全保障環境が日々厳しさを増しているからである。とりわけ専守防衛の考えが根強い日本にとっては、デジタルエンブレムなどを通じて攻撃側にコストを付加していくことが欠かせない。
また、日本企業が、日本の領土の外、世界のさまざまな国でサイバーインフラを提供するビジネスを行っている。デジタルエンブレムはそのような日本企業が、サイバー攻撃の対象となる機会を減らし、ビジネスを間接的に保護することにもつながるはずである。