松野博一官房長官は10月18日、武力攻撃予測事態を想定した沖縄県の離島住民避難に関し、九州で受け入れるための初期的計画を2024年度中に策定すると表明した。この武力攻撃予測事態とは、武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫して武力攻撃が予測される事態を指している。
つまり、差し当たって避難する住民が攻撃される危険は無いものの、武力攻撃事態へとエスカレートして住民に危険がおよぶ可能性を常に孕んでおり、速やかな避難が求められる状態である。沖縄県の離島とは、台湾に近接している先島諸島を指すものと考えられる。
これまで政府は、中国による台湾侵攻への危機感が高まる中、南西地域の防衛体制強化を進めてきたが、住民避難については自治体に多くを委ねてきた。しかし、自治体には軍事情報をリアルタイムで入手する手段は無く、住民避難の開始を適時に判断する能力も無い。
また、自然災害では頼りになる自衛隊も、有事には侵略の排除が優先され、住民避難への支援は限定される。更に、住民避難の足となる民間の航空・海運会社も、危険が伴う可能性のある業務に従事するのか、確約は無い。
その上、自治体は九州などで住民の避難先を確保する必要がある。先島諸島の住民は十万人を超え、その避難先を見つけることは容易ではない。
こうした難しい状況がありながら住民避難を自治体に委ねてきた政府だが、今回の松野官房長官の表明によって、遅ればせながら重い腰を上げたと言えよう。とはいえ、有事における住民避難が喫緊の課題となっている先島諸島の自治体としては、政府が策定する避難計画の実効性が大いに気にかかるであろう。本稿では、住民避難計画を「絵にかいた餅」にしないために政府が取り組むべき事項を考えてみたい。