2024年5月15日(水)

21世紀の安全保障論

2023年11月1日

 避難する住民は多くの不安に苛まれる。無事に避難できるのか、いつまで避難が続くのか、故郷や自宅はどうなるのか、島に残った者の安否は、避難先での生活環境は、収入を得る手段は、子供の教育は、お年寄りの介護は……など数えきれない。

 政府は、先島諸島から避難する住民の不安に寄り添い、避難先での物心両面でのサポート体制構築を主導すべきだ。決して避難元あるいは避難先の自治体任せとしてはならない。

それでも、想定しない事態は起きる

 中国の台湾侵攻が差し迫った武力攻撃予測事態では、台湾から先島諸島に多数の避難民が漁船などで流入する可能性がある。その避難民受け入れと先島諸島の住民避難との同時対処は自治体には不可能であり、政府が前面に立って対処せねばならない。しかし、政府は正面からこの複合事態に取り組んできただろうか。

 また政府は、まず武力攻撃予測事態が起こり、次に武力攻撃事態になるという固定概念を捨て去るべきだ。なぜなら、侵略者は奇襲を追求するために攻撃の日時・場所などを徹底的に秘匿し、それを見破ることは困難だからだ。武力攻撃事態が突如として生起した場合、先島諸島から九州への住民避難など不可能であり、島内避難で住民を守る以外に手段は無い。

 しかし、ウクライナ戦争の例を見るまでもなく、戦火の中で住民を守ることは極めて難しい。地下シャルターの整備、物資の備蓄など、政府が主導すべき事項は多い。

 このように、住民避難計画を「絵にかいた餅」にしないために政府が取り組むべき事項は山積している。政府は、従来の姿勢を転換して危機を直視し、早急に実効性のある住民避難計画を作成せねばならない。そして沖縄県も、県民の命を守るため、政府に最大限協力すべきだ。

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