2024年11月23日(土)

21世紀の安全保障論

2023年11月1日

現実的な訓練と輸送手段の確保を

 先島諸島からの住民避難計画は、国、複数の県、市町村、民間企業、米国などの他国が関係し、陸海空、サイバー、宇宙などの多様な領域に跨る。また、この避難計画は、SNS空間などで真偽不明の情報が錯綜する状況が前提となる。

 したがって、起こりうるさまざまなシナリオを想定し、住民避難に関係する多様な機関および住民が参加する実際的な訓練を行い、計画の実効性を高める必要がある。こうした大規模な訓練を行うには大きな負担が伴うが、従来の小規模かつ形式的な訓練に留まっていては避難計画の実効性を高めることは不可能だ。

 武力攻撃予想事態での住民避難では、自衛隊や海上保安庁の航空機や艦艇には多くを期待できず、民間の航空・海運会社の協力も確実とは言えない。更に、沖縄県が行った試算では、民間の航空・海運会社が全面的に協力した場合でも、先島諸島の住民の避難には6~10日が必要との試算もあり、その間に武力攻撃事態が生起する可能性もある。

 したがって、住民を迅速に避難させるためには自衛隊、海上保安庁、民間企業以外の輸送手段が必要となる。その対策の一つは、自治体自身が輸送手段として比較的安価な船舶を保有することだ。

 具体的には、先島諸島に多い小規模な漁港や海浜でも避難する住民を乗せられる小型の揚陸艇が最適だろう。先島諸島の各島嶼にこの揚陸艇を一定数揃えれば、輸送力は大きく向上する。

 この際、政府は揚陸艇の購入、維持・整備、乗組員確保などの経費を負担すべきである。なお、先島諸島から小型の揚陸艇で避難する場合には、比較的近距離の沖縄本島を一時的な避難先とし、そこから九州まで大型船や航空機で輸送するという二段階の避難となろう。

住民をいかに支援するのか

 先島諸島の住民は10万人を超えるが、それらの住民が一挙に九州に避難できる訳ではない。避難する住民は自治体からの指示に従って島内の避難施設に移動し、その後、空港や港湾に移動して航空機や船舶で順番に避難する。

 したがって、住民の避難に6~10日が必要とすれば、この間の生活のために避難施設の整備、食糧・水・医薬品・生活必需品などの備蓄、医療・介護・通信・治安維持などの住民サポート体制の構築が必要となる。これは一義的には自治体の役割だが、その人的・財政的負担は過大であり、政府による支援は不可欠だ。

 他方、国民保護法第四条では、避難など「国民の保護のための措置」への協力を国民に強制できない旨が明記されている。このため、自治体が避難を指示しても、一定数の住民が島に残ることは避けられない。

 その場合、自治体は一部の職員を島に残し、こうした島に残った住民へのサポートを続けざるを得ない。しかし、島に残る自治体職員および住民の安全確保、生活の維持などのためには、政府による支援が必須だ。


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