2024年4月24日(水)

東大教授 浜野保樹が語るメディアの革命

2009年4月20日

市場規模の推計

 こういった個別の逸話なら、いくらでも並び立てられるし、既に拙著『模倣される日本』で紹介済みなので、そちらに譲るが、日本のアニメーション輸出の全体像をとらえる統計資料となると、存在しないのが実情である。

 それどころか国際市場規模すらもわからない。公表されているものとしては、韓国政府の736億ドル(1998年時点)だけだと思われるし、その2年前には世界で見られているアニメーションの65%が日本製であるという調査結果を韓国政府の高官が発表している。いずれの数値についても根拠は示されていない。ただ736億ドルは、民間調査会社PriceWaterhouseCoopersが公表している劇場映画の世界市場規模の約900億ドル(現時点)に近似している。

 アニメーションの市場規模の推計が困難なのは、BtoCの映画だけでなく、BtoBのテレビ放送も含まれているからだ。

 日本アニメの国内市場として、約2,000億円という額が取り上げられることが多いが、これは、映画の興行収入とDVDなどのパッケージ売り上げ、そしてテレビアニメーション制作費(アニメ制作会社から放送局へのコンテンツ販売料)が加算されたものである。この推計では、BtoBのテレビ放送に関する"売り上げ"として、制作費が計上されている。しかし本来ならば局に入る、番組のスポンサー料(広告収入)に置き換えるべきであると思う。残念ながら現状では、市場全体が低く見積もられてしまっている。

 さらに推計を困難にしているのは、アニメーションが本体よりも、そこから派生するキャラクター商品の売り上げの方が大きい点だ。それを抜きにアニメーションのビジネスは語れない。

 そのことはディズニーの成功を例に出すまでもないことだ。アニメーションをキャラクター生成のエンジンであることを発明したウォルト・ディズニー社は、1923年の創業後、テーマパーク、実写映画に進出。三大ネットワークのABCなどの放送局を傘下に納め、世界有数のエンターテインメント企業となった。ウォルト・ディズニー社の2007年度総売上高は355億ドルに及び、ドルが下がったとはいえ3兆円を越える。

 アニメーションは文化に支配されにくく、無国籍性が高い。また不測の事態やスターのきまぐれからも隔絶でき、制作やキャラクターの管理もしやすい。息の長い、ストック型のコンテンツである。エンターテインメント・ビジネスを越えて、他のビジネスとの融合もしやすいため、その市場を算出することは至難の業である。
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