スカボロー礁は12年以来、中国が力によって支配しており、障害物によってフィリピン船舶を同礁に近づけなくさせようとした。南シナ海全般に埋立てや軍事施設の建設が着々と進んでいるし、フィリピン漁民等への嫌がらせは日常茶飯事である。最近ではフィリピンのEEZ(排他的経済水域)内の珊瑚礁の中国による破壊について、フィリピンが2度目の常設仲裁裁判所への提訴を検討していると言われる。
したがって、安全保障面、経済面双方で、中国による南シナ海の力による現状変更の試みは着実に進み、極めて憂慮すべき事態になっている。社説では、習近平主席が経済の行き詰まりと指導力の危機という国内問題から国民の目をそらせるために、中国が危険なテストを行なっている、との視点を強調している。
歴史的に見れば、中国は南シナ海において力の空白が生じた時に必ず行動を起こしている。ベトナム戦争末期に米軍が撤退すると西沙諸島を占拠し、在ベトナムのソ連軍が縮小した1980年代半ば以降は南沙諸島を占拠し、1992年に在比米軍が撤退するとミスチーフ礁を占拠するといったものだ。
中国は今が好機と判断しているのかも知れない。過去の中国の行動ぶりを見れば、今後、中国が南シナ海への圧力を弱めることは考えにくい。
当然、このような中国による危険な試みに対しては、関係国が一致して毅然とした態度をとる必要がある。米国については、フィリピン防衛のコミットメントをバイデン大統領が強調したことは極めて適切であった。
社説が指摘するように、これを繰り返し言及することが大切であるし、同時に行動が伴うことも重要であって、米比共同訓練や航行の自由作戦の実施、あるいは海洋監視能力の支援など、今後も米国が実質的に南シナ海問題に関与していくことが重要である。12年のスカボロー礁の占拠の際は、フィリピンにおいてオバマ政権の対応に大いに不満が生じたが、バイデン政権はこの教訓を十分認識していると思われる。
一方、大統領選挙を控えた状況の中、ウクライナに対してすら支援に消極的な内向き勢力が一部存在することは心配である。世界的な問題を解決する能力を持つ唯一の国の意志が引き続き強固であることを期待する。
フィリピンではマルコス政権となって対米関係、特に安全保障環境が大幅に改善した。ドゥテルテ政権下では共同訓練は大幅に縮小し、防衛協力強化協定(EDCA)はほぼ執行停止状態にあり、一時は訪問軍地位協定(VFA)の廃棄まで俎上に登った。マルコス政権は、就任後、対米重視を鮮明にし、共同訓練の拡充、EDCAの対象施設拡大など諸施策を積極的に進めている。
日本も高める安保協力
11月3日より岸田文雄首相がフィリピンを訪問し、貿易・投資の拡充、インフラ支援等の経済問題に加え、安全保障協力の拡大も議論された。特に、安全保障面では、日本の政府安全保障能力強化支援(OSA)の最初の案件として沿岸監視レーダーの供与が合意されたことは画期的である。
また「円滑化協定(RAA)」の交渉開始が発表されたが、これが結ばれれば、今後の共同訓練や災害支援の実施が格段にスムーズになる。これまで政府開発援助(ODA)による巡視船の供与や日比防衛装備品・技術移転協定の締結、2+2会合の実施などさまざまな協力が進められてきたが、今回の岸田首相の訪比により日比安保協力がさらに一段階高みに引き上げられることになった。