このほかにも18年以降、北朝鮮が短距離弾道ミサイル発射を重ねると、ロシア由来とされる弾頭下降時に再度機動・上昇を可能にする「プルアップ機動」の技術を確立したことをアピールした。これに対して、当時の韓国国防部のチョン・ギョンドゥ長官が韓国もすでに国防部の付属組織である国防科学研究所で開発された技術を持っていることを明らかにしている。
しかしながら、プルアップ機動は元々ロシアのイスカンデル型短距離弾道ミサイルが持つ独自技術であり、コールド・ローンチ技術と同様にロシア由来なのではと疑いたくなるが、実際のところ現時点で筆者はその根拠となる情報を持ち合わせていない。
知られざる韓国とロシアの軍事技術協力の歴史
日本ではあまり知られていないが、冷戦後ソ連からロシアになって以後、韓国とロシアの間では防衛産業協力協定に基づく軍事技術協力が行われてきた。その起源は、冷戦末期に当時の盧泰愚大統領が推進した「北方外交」により、当時のソ連と国交締結し対ソ借款を提供したことである。ソ連崩壊後に借款を引き継いだロシアが経済状況の悪化により返済が困難になると、債務処理の手段として、ロシアからの防衛装備および技術の導入が実施されたのである。
このロシアとの協力事業は「ヒグマ(韓国語で「プルゴム」)事業」と名付けられ、1995年以後、債務返還の代わりにロシアからT-80U戦車、BMP-3歩兵戦闘車、9K115 Metis-M対戦車ミサイルなどの装備品が韓国に渡った。今でも韓国軍はロシア製戦車を30台ほど保有しているとされる(「駐韓ウクライナ大使、韓国のミサイル生産企業訪問中止」『ハンギョレ』2023年4月15日)。
このロシアとの防衛産業協力は韓国の研究者レベルではロシアとの防衛産業協力があった事実は知られているものの、その協力レベルがどの程度のものだったのか人によって認識はさまざまだ。「大した兵器や技術を輸入していない」、「砲撃訓練の的になる戦車を輸入しただけだ」といったさまざまな答えが返ってくるがどれも信憑性が怪しい。
韓国とロシアの間では96年11月に「国防協力協定」が結ばれると、97年11月に「軍事技術分野・防衛産業・軍需協力に関する協定」、2001年2月に「軍事秘密情報の相互保護に関する協定」、05年10月には「地対空誘導武器体系協力事業の相互協力に関する協定」がそれぞれ締結された。
ウクライナ侵攻の約1年前の21年3月には「国防協力に関する協定」が条約として再び締結されてもいる。90年代後半から脈々と続いてきた協力関係が存在するのだ。