2024年7月22日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年12月1日

 今、米EU間には困難な貿易問題がある。これらの問題については、10月20日に米国で開催された米EU首脳会談に向けて交渉が行われたが、解決できなかった。バイデン政権は欧州が求めた自由貿易協定(FTA)交渉にも乗っていない。

 米欧貿易問題の第一は、鉄鋼・アルミニウムに対する所謂トランプ関税の撤廃である。バイデン政権は、関税適用を一時停止し、代わりに関税割当を実施している。EUは世界貿易機関(WTO)違反だとしてその正式撤廃と関税割当の撤廃を要求している。

 第二の問題は、それに対して米国は、米欧等の鉄鋼クラブの創設(中国等に対する鉄鋼・アルミニウム共通関税の導入を想定)を条件としているが、EUは反対していることである。

 第三の問題は、米国のインフレ削減法によるEV等への補助金や税の優遇措置である。日本は今年の3月、米国と「重要鉱物サプライチェーン強化協定」に署名、これにより米国のEV税制優遇措置が日本企業にも適用されることになった。欧州は日本と同様の協定を締結したい。しかし米国は同意していない。

 報道によれば、年末を目指し交渉を続けるようだが、結末は判然としない。なお、EUは中国から欧州に輸出されるEVの補助金調査を開始した。しかしEUはその環境政策推進のためには中国のEVや部品を必要とする。欧州にとり、対中輸入と環境目的達成は密接にリンクしている。

かつての日米貿易摩擦から学ぶこと

 現在の米欧貿易問題につき、ビーティーの上記の論説での主張は、要するに原則論に余りこだわるべきでないということだ。「多国間貿易規則が弱い世界では、戦う対象を選ぶことが重要だ」というのは、なかなかの名言である。

 注目されるのは、ビーティーがこうした主張をするに当たって、かつて日本が米国の要求した自動車や半導体の対米輸出自主規制(VER)を受け容れたことを教訓だとして肯定的に評価していることである。当時は「管理貿易」等と厳しく批判されたが、ビーティーは「70年代と80年代の管理貿易の教訓は、倒れないように風に乗って揺らぐことだ。当時、日本の自動車と半導体産業は、米国の策略にもかかわらず、世界的なプレーヤーになる道を続けた。今日、EUは必要な所では譲り、最重要な所では堅持することにより、経済と環境へのコミットメントを守ることができる」と結論づける。

 日米貿易戦争を実利的な方法で抑えた日本の対応は、賢明だったと言える。直線的な貿易戦争は危うい。しなやかな貿易交渉が必要だと言えるだろう。

 この観点で米中に目を転ずると、今の両国間にはそのようなしなやかさが欠如している。80年代の日米競争と今の米中競争の間には、どちらも覇権戦争と捉えられるなど、類似点も多いが、しなやかな対応の欠如、イデオロギーの介在などの点では大きく相違する。したがって、今の米中競争の方がより厳しく激しいものとなるだろう。

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