11月16日(現地15日)、米サンフランシスコで開催された「アジア太平洋経済協力会議」(APEC)首脳会談にあわせて、約1年ぶりに米中両国の首脳会談が行われた。その数カ月前から、米国側の積極的なアプローチで地均しが進められ、中国側も条件を付けながらこれに応じる形で実現した会談であった。
当日は、市内から離れた広大な邸宅が会場に用意され、両首脳が庭園を散歩したり、バイデン大統領が習近平国家主席の夫人の誕生日に対して述べた祝いの言葉に習近平がジョークで応じるなど、融和ムードの演出も試みられた。そして会談の内容も、双方が得るべき一応の成果を、それぞれ達成するものとなった。
そも米国にとって今回会談の必要性は、中国との大小の競争的課題を適切にコントロールするための土台を組み直すことにあった。特に安全保障関連では、南シナ海や台湾海峡での常態的な米中両国軍の危険接触、今年2月には中国の偵察気球が米国上空を横断したことで撃墜した事件など、ボタンの掛け違いが相次ぎ、その誤謬が偶発的衝突を招きかねない土壌を形成しつつあった。
さらに昨年からのウクライナ戦争だけでなく、直近ではイスラエルとハマスの戦闘激化にイランの蠢動(しゅんどう)が加わった中東での事変に直面したことで対応能力が乏しい現状では、東アジア情勢の安定が望ましい。
一方で中国は、過去四半世紀で経験したことのない国内経済の低迷に加え、米国主導の経済封鎖戦略や、外資からの投資減退や国外への資本流出などに直面している。さらに共産党の最高指導部ですら、しばしばコントロールに手を焼く軍部の動きが、米軍や周辺国との偶発的衝突に発展することは米国同様に懸念しており、現状では何としても避けなければならない。従って習近平も、バイデンとの会談に臨むことで、米国との関係安定化に向けた仕切り直しを図りたい思惑があった。
一応の成果と「独裁者」発言が示すもの
この米中首脳会談の結果、双方はいくつかの事項で合意に達した。米国側にとって最大の成果は、これまで中国が拒否してきた軍高官間の対話再開であり、この他にも、米国で問題が深刻化している合成麻薬フェンタニルの中国産原料製造・輸出の取り締り、AI規制での協力、重要事態での円滑な首脳間ホットラインの機能などで合意したことであった。また、ウクライナ戦争に絡む中国のロシア支援、来年1月に実施される台湾総統選挙に関しても言及し、中国を牽制している。
中国側には、会談内容よりも会談自体に成果があった。国内に向けては、中国が米国と並び立つ大国であり、それをリードするのが習近平という印象を与えつつ、現実には、とりあえず対米関係を安定化させることで、山積する国内政治・経済問題に集中することができる。