ここで、通信技術の背景として、電波の特性について述べる。アナログからデジタルへの転換はデジタル社会の推進のために必須である。ところが、比較的低周波のアナログから高周波のデジタルに転換した場合にアンテナを多数建設しなければならないという難関がある。
例えば、低周波は木造家屋街に鉄筋コンクリートの建物が立っていても、それを回り込むような形で電波が木造家屋街にも届く。高周波は届く範囲が携帯電話の場合は、半径500m程度であり、鉄筋コンクリートのビルを貫通できない。そのため、アンテナの数が多くなる。
携帯大手が共同アンテナ建設の方向にある。能登半島地震が起きる直前の23年末にNHKと民放の協議会が今後共同の基地建設に取り組むことを決めていた。
SNSの普及で変わったのか?
大災害と新しいメディアの技術が開発され普及する時期が重なるように見えるのは、偶然とは思えない。Twitter(X)が1日当たり5000万件を超えるツイートを達成して、SNSの王座の地位に立ったのは、東日本大震災が起きる前年の2010年のことだった。Facebookが株式を公開したのは、12年2月である。
iPhoneが米国で発売されたのは、07年1月。日本などで売り出されたのは翌年のことである。スマートフォンが上記のSNSの普及に拍車をかけたのは間違いない。
世帯人数が2人以上の世帯のスマホの普及率は23年に92.6%に達している。単身世帯でも89.9%である。震災による基地局の打撃は、国民のコミュニケーションを断絶する。
東日本大震災によって、携帯の基地局は最大約2万9000局が停波した。停波の原因は約8割が停電だった。
この教訓に立って、携帯大手は震災の対策を整えた。基地局の一部に予備のバッテリーを置いた。震災の際の拠点となる県庁や市町村の役場などがある地域には、発電用のエンジンを備えた基地局を整備した。
このなかでは、ドコモの「大ゾーン基地局」が特筆される。通常の基地局よりも大範囲をカバーしている。しかし、都道府県の2カ所程度にとどまっており、能登半島地震のような人口が比較的密集していない地域には効果を発揮できなかった。
能登半島地震に対して、大手携帯会社は早々と手を打ったことも取り上げなければならない。災害は新しい通信手段を強くする。
ドコモと、auを運営しているKDDIは、共同で輪島沖に船舶を基地局にした。ソフトバンクはドローンによって通信機能の維持に取り組んだ。
命を救う報道はし続けられるか
メディアは、東日本大震災から多くを学んでいる。能登半島地震における津波警報に伴う「今すぐ避難!」という絶叫調のNHKによる報道である。新聞報道などは、このアナウンサーの初任地が金沢放送局であったことから真剣になった、という個人の行動に絞っている。
しかし、報道は個人の判断でなされるものではない。このシリーズでも絶叫調の避難を呼びかけるNHKの報道については触れた。(「『すぐに避難を!』命令調の放送が始まる」2012年3月28日)。大震災後に報道分野の議論のなかで、発信する情報が交錯して、多くの人の命を救うにはどうしたらよいかという観点から生まれたのである。
ただ、東日本大震災と能登半島地震の報道の体制を比較すると、愕然とする。インターネットによって、報道機関の経営が圧迫されている。