2024年12月25日(水)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年1月9日

 1月2日に発生した羽田空港における日本航空(JAL)着陸機JL516便と離陸中の海上保安庁の航空機の衝突事故は、日本だけでなく世界にも衝撃を与えた。特に日本の場合に、報道が加熱したことで、ただでさえ遅れ気味であった能登半島地震に関する報道が少なくなったことは残念である。加えて、この事故に関する報道には多くの誤解が含まれている。

羽田空港での日航機炎上事故を、ただの「日本の奇跡」と見てはいけない(ロイター/アフロ)

 まず、JL516便に関しては、乗員乗客379人が一部の軽傷者を除いて無事であったことが称賛されている。これは日本でも海外でも同様だ。

 だが、日本の一部のネットでの議論では、海外での報道では、海保の犠牲者への礼節に欠けているという声がある。つまり、「日本航空のクルーが奇跡を起こし、全員が帰還した」ことばかりが取り上げられており、同じ事故で亡くなった5人に失礼だというのである。

 この点に関しては、例えば米三大ネットワーク「NBC」の朝のニュース「トゥデイ」の場合、事故直後1月2日の第一報でも、特派員が羽田入りした翌日の中継でも、まず能登半島地震の深刻な状況、次いで海保の犠牲者について丁重に紹介している。つまり文脈の全体は日本における悲劇だとしっかり説明した上で、「JAL機の全員生還」を必要以上に美談にするのは避けていた。国は変わっても、報道における品位への配慮はされていることをお伝えしたい。

 それはともかく、羽田の事故に関して、日本の報道では3点ほど大きな誤解がある。この機会に少し詳しく議論しておきたい。

「90秒ルール」はJAL独自ではない

 1点目は、客室乗務員の訓練、特に「90秒ルール」についてである。今回のクルーが立派な結果を出したという事実は否定できない。そこにはほぼ無制限の称賛が与えられていいとも思う。

 その一方で、重大な事故に際して90秒で乗客全員を安全に機外へ脱出させるといういわゆる「90秒ルール」を適用して研修を行っていたのがあたかも日本航空だけのような説明がされている。しかし、これは誤解である。

 極端な報道では、日本航空は「御巣鷹山」や「逆噴射」など多くの事故を経験しているので、その経験の蓄積による「血のマニュアル」があり、それが今回は乗客の生命を救ったなどという解説もある。これも誤解だ。


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