2024年6月16日(日)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年1月9日

本当に究明されるべき原因

 3番目は、事故の原因である。現時点では、海保機の側に過失があり、管制塔の側にも不注意があったとか、自動警告装置の不備もあったといったような「解説」がされている。だが、本当の事故原因調査というのは、こうしたレベルのものではない。

 また、一部には事故機が震災への援助物資を輸送するために焦っていたという憶測もあるが、少なくとも免許を得て航空機の操縦を行う人間の心理としては非現実的と思える。

 事故原因として想定されるのは全く別の次元の問題だ。例えば、仮の話になるが、海保の組織風土において「上官の決定には部下は逆らえない」というようなカルチャーがあった場合には、その組織風土そのものが事故原因を構成しているとして改善の対象となる。また、これも全く仮の話だが、純粋に文民である国家公務員の航空管制官には、有事においては自衛隊の指揮下に入るいわば準軍人である海上保安官に対しては遠慮するとか、過度にその判断を信頼してしまうカルチャーがあったのなら、これもまた、その全体が改善対象となろう。

 最近の事例では、韓国の旧アシアナ航空機の事故や、台湾の中華航空機の事故などで、操縦士(パイロット)と、副操縦士(コ・パイロット)の間に、軍隊のような上下関係が生じていたことが事故の原因だとして厳しく批判され、結果的に是正された経緯がある。仮に、今回の事故の背景にそのような上下関係のカルチャーの問題があったとしたならば、そこに切り込むことが事故原因調査の本丸となる。

 事故を防止するためには、センサーとAIを駆使した自動化の方が手っ取り早いという声もあるだろう。人間が操縦桿を握る限りはヒューマンエラーは避けられないというのも事実だ。だが、全世界の航空業界と航空行政は、現時点ではあらゆる例外的自体において、最適な判断が下せるのは熟練したパイロットだということを、経験則として大原則に据えている。だからこそ、人間がエラーを起こさないように、極めて人間的な企業や組織のカルチャーに改善点を求めて、改善を繰り返してきている。

航空の安全はチームによってなされるもの

 JALのクルーは見事な仕事をしたと思う。当に自分たちが生命の危険を冒しつつ、乗客全員の生命を救ったという成果については、どのような称賛が与えられてもいいであろう。

 だが、そのような動作の背後には90秒ルールがあり、それは世界中の航空会社に義務付けられていること、また90秒以内に乗客の退避を実現するよう乗務員に厳しく求めることの裏には、機材に対しても90秒間は乗客を保護するような耐久性、難燃性が厳しく求められていることも知られていいと思う。

 もっといえば、航空機というのは、クルー、機材(製造と整備)、管制、監督官庁、国際機関のチームワークによって安全運航がされている。事故が起きたという事実も、海保機側で5人の貴重な人命が失われたということも、少なくとも日航機の側では乗客乗員の全員が生還したというのも、全てそのチーム全体に責任がある。そしてそのチーム全体が今回の事故を教訓としてより高い安全を実現しようとしているのも事実である。

   
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