2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2013年10月25日

 また、サファリを走り回る獣たちのぶち模様や縞模様。これらは、毛に色をつける色素を生成する表皮細胞によって生み出されるという。化学的な媒質に現れたテューリング・パターンのぶち模様や縞模様とそっくりなことに、驚かされる。

 テューリング・パターンというのは、その名の通り、数学者で人工知能の父であるアラン・テューリングが、生き物の模様ができるメカニズムについて考え出した理論である。恥ずかしながら、「あの、チューリング・マシンの生みの親!」(こちらの名のほうが馴染み深いのだが、本書ではテューリング)が、生物のかたちの問題を深く考えていたとは知らなかった。

 続いて、「ベロウゾフ=ジャボチンスキー反応」で見られるらせん模様や唐草模様からは、孫悟空の觔斗雲や伝統的な風呂敷柄を想起する。

 さらに、活性因子=抑制因子化学反応による斑点模様。エンゼルフィッシュが大きくなるにつれて変わっていく縞模様。チョウの羽に展開される万華鏡のような模様・・・・・・。

 口絵に掲げられた魅惑的な模様の数々がつくられていく工程を知るためなら、やや難解な文章につまずいたとしても、読み通すことができるだろう。

「生命の普遍的なパターン」

 興味深かったのは、鉱石や動物の毛皮の模様、チョウの羽や貝殻の模様にとどまらず、花びらや葉の並び方、指紋、南の空に見える渦巻き銀河にさえ、「生命の普遍的なパターン」があるということだ。さらには生態系にも、動物の棲み分けや植物の分布といったパターンがある。

 最終章では、著者がいうところの「科学の中核に位置する、とりわけ手ごわい問い」に手をつける。胚を展開する方法、すなわち、「ボディー・プラン」の形成である。

 「のっぺりとした胚から生きた有機体をつくりだすのに、この自然発生的なパターン形成はどこまで役割を果たすのかということ」に関する議論が披露される。

 ダーウィン進化論からの系譜--生き物の体のかたちと模様を環境条件への適応として片づける状況--に、一石を投じたダーシー・トムソンの主張をはじめ、テューリングや、個体発生は種の系統発生を要約したものであるという「生物発生の法則」を唱えたエルンスト・ヘッケルら、重要な役者が総登場。教科書で習った生物学がその後の研究によって書き直されていること、あるいは、最近の知識でもすでに古くなったものがあることを知らされる。


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