ノーベル医学・生理学賞に輝いた山中伸弥京都大学教授の、受賞後の記者会見を見た。iPS細胞を使った創薬をどう本格化させていくか、という課題に加え、「日本の子供たちや若者たちにいかに科学を好きになってもらうか」がもう一つの課題である、と山中さんは強調した。
研究者として日米両国を行き来している山中さんは、アメリカ留学からの帰国後経験した落ち込みを「ポスト・アメリカ・デプレッション(うつ)」と表現しているが、受賞後の会見でも、「米国では科学者は多くの若者たちの憧れの的。だが、日本ではそうなっていない。どうしたらこの日米の溝を埋めていけるのか、考えている」と、日米の違いを述べた。
「科学技術立国日本」といいながら、日本の研究環境は国際的にみて、制度的にも経済的にも厳しいといわざるを得ない。
何より、山中さんがおっしゃるように、科学者が少年少女の憧れの的となるような雰囲気が醸成されていない。
海外の科学者や、海外で研究活動をする日本人科学者の取材経験からも、科学者(と、その卵)がのびのびと、そしてとことん研究に邁進できる環境が日本には必要だと痛感する。
熱気あふれる「学生による科学のオリンピック」
『理系の子』は、好奇心のおもむくまま、自由闊達に、科学研究に取り組む少年少女の物語である。
原題は、「サイエンス・フェア・シーズン」。「サイエンス・フェア」とは、中高生が科学の自由研究を出品し、その成果を競う、アメリカで盛んなイベント。州ごとや小さなコミュニティ単位でも開かれており、その最高峰がインテル国際学生科学フェア(略称インテルISEF)だという。
毎年5月にアメリカで開かれるインテルISEFには、世界各国の提携サイエンス・フェアを勝ち抜いてきた高校生の研究が出品される。つまり、「学生による科学のオリンピック」なのである。
ニューヨーク州在住のジャーナリストである著者は、熱気あふれるフェアの会場で研究の質の高さに圧倒され、呆然とする。と同時に、「生徒たちの研究の背後にある物語」に強く心を打たれる。