12月13日に発足したトゥスク政権はPiS政権の有害な遺産を一掃することに急で、矢継ぎ早に強硬な手を打って来ている。中心的な問題は、この記事が主題とする裁判所の中立性の回復であるが、他にも問題がある。
12月20日、トゥスクがPiS政権のプロパガンダ機関に堕したと非難していた国営のTV局(TVP)のニュースチャネルが突如放送を停止した。文化省がTVPの理事会を解任したことによるものである。
TVPはその排外主義的あるいは人種差別的な色彩の放送で知られていたらしいが、PiSは政府の行動は民主主義に対する攻撃だと非難した。ドゥダは、メディア関連法を迂回すべきでなく、「ポーランドの法的秩序を尊重」すべきことを警告したが、これに対し、トゥスクは、この行動は「法的秩序と公的な場における一般的な品位を回復することを目指すもの」だと反論したという。
トゥスクは選挙戦中から中央銀行総裁アダム・グラピンスキ(PiSのヤロスワフ・カチンスキの友人)の排除を要求していたが、選挙直前に彼が金利を予想以上の幅で引き下げたことはPiSを後押しする政治的動機に基づくものだとして緊張が高まった経緯がある。新政権はグラピンスキの適格性を判定する法廷で調査を始める(調査には議会の投票を要する)ことを目論んだが、1月11日、憲法裁判所(その判事は多くが前政権の任命である)は、そのような調査は憲法違反との判決を出した。
トゥスクは別の道があると述べたが、この件は無理筋ではないかとの印象である――グラピンスキが2028年まで二期目の任期を残していることはトゥスクには不都合で不愉快であろうが。
1月12日には、新政権は次長検事を強引に解任したが(解任には本来大統領の承認が必要)、15日、憲法裁判所は一時差し止めを命じた。しかし、司法相は憲法裁判所の命令には欠陥があるといっている。
脅威となる大統領の拒否権
以上のように、PiSが8年間の治政の間に築いた牢固たるネットワークの破壊は一筋縄ではいかない難事業である。裁判所の中立性を確保するために、KRSの改革は避けて通れないが、これには所要の法案に対する大統領の拒否権が脅威となる。
新政権は大統領の拒否権を覆すに足る5分の3の多数を有しない。新政権が裁判所の中立性の回復のためにどこまでやるつもりかは明らかでないが、上記の記事の末段に的確な指摘があるように、PiS政権によって任命された裁判官を解任し、彼等が出した判決を無効とすることにまで踏み込むのであれば、それは司法に対する政治の無骨な干渉となる。改革は必要だが、そのために法の支配を毀損することは認め得ないことは欧州委員会が注意を喚起していることでもある。
1月15日、ドゥダとトゥスクが会談したが、緊張を緩和することに失敗した。ドゥダは25年まで任期を残しているが、新政権とPiSとの調停者を演ずるのではなくPiSの側に立って行動している。新政権の改革は「法に違反する」とドゥダはいい、「2015年以来のポーランドの法の支配と法秩序の荒廃にドゥダは加担した」とトゥスクはいっている。
トゥスクが政権発足当初から断固たる手を打ちつつあることを民主主義も反撃出来ることの証として歓迎する見解も見られる。しかし、ドゥダとの抜き差しならぬ対立は、国政の停滞を招く危険がある。