ポーランドでは10月15日の議会選挙の結果、野党陣営が勝利し政権交代の見通しとなったが、フィナンシャル・タイムズ紙欧州エディターのベン・ホールが10月16日付け同紙掲載の論説‘Poland’s democratic health appears better than many feared’で、ポーランドの民主主義は怖れられていたよりも強靭であったとの趣旨を書いている。要旨は次の通り。
今回の選挙は共産党の支配を終わらせた1989年の選挙以降において最も重要な選挙であった。その帰趨には民主主義の政体としての、そして与党のイデオロギー的なアジェンダではなく法の支配を堅持する国としての、ポーランドの生き残りがかかっていた。
野党の勝利、およびそれに伴うポーランドの司法の非政治化は、ポーランド向けの欧州連合(EU)資金の凍結を解除することになるはずである。また、野党の勝利は、ポーランドに最も近い隣国、特にドイツそしてウクライナとの関係を修復するであろう。野党の勝利がEUの拡大、統合の深化、防衛力の強化に対するポーランドの支持を意味するのなら、潜在的にはEUを作り替えることとなろう。
ヤロスラフ・カチンスキ率いるナショナリストで超保守の「法と正義」(PiS)は35.6%(注:99.5%開票時の数字)を獲得して第一党となったが、極右の「同盟」(Confederation)のお粗末な出来(得票率7.2%)のおかげでPiSは過半数を得るためのパートナーを欠いている。
選挙結果は、5年間欧州理事会議長(EU大統領)を務めた後、ポーランド政界に復帰した元首相トゥスクに報いるものであった。悪し様にいわれながらも、彼は統制し難い自身の党に規律を課し、選挙戦を仇敵カチンスキに対する国民投票に転化し、インフレと生活費の懸念につけ込んだ。
トゥスクの「市民プラットフォーム」(Civic Platform)は世論調査を上回る30.5%の票を獲得した。しかし、PiS政権の終焉を決定づけたのは他の野党の健闘である。中道右派の「第三の道」(Third Way)と「新左派」(The Left)はそれぞれ13%および9%の票を得る見通しである。これら3野党で下院460議席のうち248議席を占めることとなろう。
ポーランドは強靭な民主主義であることを証明した。投票率はほぼ73%に達したが、これは国民がこの選挙の重大性を承知していたことを示している。
ポーランドの健全な民主主義の真のテストは、PiSが議会の多数を集められないとなった今、秩序ある権力の移行にある。トゥスクが政権樹立のチャンスを得るのは1月を待つことになるかも知れない。
この先「戦いと種々の緊張の日々」だとのカチンスキの警告は不気味である。仮に、野党が政権に就いたとしても、PiSに同調する大統領のアンジェイ・ドゥダおよびPiSの闇の政府は、民主主義と司法の独立を回復するための改革を妨害しかねない。しかし、目下のところは、ポーランドの親・欧州派には祝うべきあらゆる理由がある。