10月15日に行われたポーランドの議会選挙の結果、政権交代となり、「市民プラットフォーム」のトゥスク率いる野党連合が政権に就く見通しとなったことはポーランド、EU、そして西側にとって朗報である。
カチンスキはトゥスクを「悪の権化」「国の敵」「道徳的に駆逐されるべき裏切り者」といい、あるいは「ドイツの回し者」呼ばわりするなど稀に見る毒舌と敵対の選挙戦を仕掛け、凶悪な選挙戦となったが、この選挙の重要性は国民に浸透していたようある。投票率は74%超に達したが、これは共産党の支配を終わらせた1989年の選挙の際の63%、そして2019年の前回選挙の62%を大きく上回る。
10月17日に選挙管理委員会が発表した下院の最終結果は、PiS(法と正義):得票率35.38%=194議席、KO(市民連合、市民プラットフォームを中核とする連合):30.70%=157議席、「第三の道」:14.40%=65議席、「新左派」:8.61%=26議席、「同盟」:7.16%=18議席となっている。PiSの得票率は事前の世論調査の数字を下回り、41議席減と議席数を大きく減らしている。
野党陣営では、KOが健闘し、またKOがPiS打倒の目的で連携する「第三の道」と「新左派」のうち、「第三の道」が健闘し、合計で過半数の248議席を確保することに成功した。野党連合3党が互いに票を奪い合うことの懸念もいわれていたが、「第三の道」と「新左派」が足切り(単一政党については得票率5%、政党連合については同8%)を回避出来るよう、KOの一部支持者がこれら2党に戦術的に投票した形跡もあるようである。他方、PiSとKOに次いで3位に着ける可能性すら言われた極右の「同盟」は一時の勢いを失い、PiSがこの党と連携して政権を維持する可能性は失われることとなった。
真の民主主義へいまだ道険し
今後、大統領はまずは第一党であるPiSに政権樹立を命ずることになる由であるが、彼らに過半数はなく、焦点は円滑な権力の移行が実現するかに移ることになる。カチンスキの権力の移行に抵抗する意図かとも思える警告は不吉である。
トゥスク政権の樹立に至ったとしても、深刻に分裂した社会に当面する。民主主義の衣をまとった縁故主義(cronyism)を打破し、真正の民主主義、法の支配、司法の独立を回復する改革を進めねばならないが、改革はPiSとPiSが築いた牢固たるネットワーク(憲法裁判所はPiSの息のかかった裁判官で固められている)の抵抗に遭遇するであろう。
PiS出身の大統領ドゥダの法案に対する拒否権の発動も脅威となろう。新政権は拒否権を覆すに足る5分の3の多数は有しない。前途は平坦ではない。