2024年12月12日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年10月25日

 2023年9月18日付の英フィナンシャル・タイムス紙で、同紙のギデオン・ラックマンが、西側の保護主義の真の理由につき、それは単なる経済だけでなく、社会、政治的安定が掛かっているからだと指摘している。

(Kolonko/gettyimages)

 グローバリゼーションは、中国の民主主義を促進するどころか、米国の民主主義を弱体化させたのか。米国の民主主義の健全性に対する恐怖が、バイデン政権の産業政策の根底にある。バイデン政権は、トランプの対中関税を維持するとともに、米国を再工業化し、将来技術で米国がリードできるように多額の補助金を用意した。

 先週の欧州連合(EU)による中国自動車産業への補助金調査の発表は、欧州も米国と同じ道を歩み始めたことを示唆する。中国が不公正な補助金を出しているとEUが判断した場合、関税は大幅に上がる可能性がある。

 欧州が米国と同様に保護主義に向うのであれば、それは同じ理由からだ。中国との競争が欧州の産業と社会・政治的安定を揺るがすとの恐怖だ。自動車は、欧州の重要な製造業だ。

 しかし、欧州の自動車産業の優位は急速に失われている。今年、中国は世界最大の自動車輸出国になるだろう。中国は特に電気自動車(EV)で強力だ。中国は電池生産とEVに不可欠な希少金属供給を支配しており、優位は揺るがない。

 従来の自由市場なら、中国が欧州の消費者に安価で信頼できるEVを提供するなら、欧州は感謝すべきだろう。が、現在の社会と政治の現実は複雑だ。もしドイツで自動車産業が崩れ、中国のBYDがBMWに取って代わる状況になれば、ドイツの国家主義政党への支持が高まることになろう。

 欧州は、依然として中国から電池と鉱物を必要とする。中国はドイツの自動車企業にとり最大の輸出市場だ。欧州が中国のEVに高関税を課せば、中国は報復するだろう。

 これらの複雑さ故、欧州は最終的には米国の道を辿らず、保護主義の脅かしから後退せざるを得ないだろう。一方で、自動車産業を救うための政治的、社会的圧力は高まる。ポピュリストと国家主義政党の台頭は、その圧力を更に強める。

 EUは、最終的には「自主的な」中国EVの輸出規制等何らかの難しい妥協案を推進する可能性がある。最終的な結果が何であれ、産業政策と保護主義が再び大西洋の両側で深刻な議論になっていることは明らかだ。


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