経済が社会的、政治的不安定をもたらすというラックマンの指摘はその通りだろう。それは昔からの現実である。中国との競争で経済が疲弊し、米国の民主主義も揺らぐようになったというバイデン政権の考えにも一理ある。
問題は、それに如何なる政策をとるかということになる。バイデン政権は、バイデノミックス、つまり補助金による産業政策と中国との競争を遮断する保護主義政策を取り、EUは、9月13日に中国自動車産業の補助金調査開始を発表した。しかし、保護主義的措置だけでは対処できないだろう。中国の報復もあり得る。
マクロ政策、外交政策等手段を総動員する必要があるのではないか。貿易交渉も必要だ。相手国と問題が起きれば先ず貿易交渉をするのが普通だが、米中間ではそれが不十分だ。レトリックではなく、交渉をやるべきだろう。
EUが開始した補助金調査もやってみる価値がある。対中話合いの端緒にはなるだろう。なお、米通商代表部(USTR)のタイ代表が最近、世界貿易機関(WTO)改革の議論が大事だと言っているが、本気でやるべきだ。
中国による輸出自主規制案は、ひとつの解決策になるかもしれない。ラックマンは、「EUは、最終的には『自主的な』中国EVの輸出規制等何らかの難しい妥協案を推進する可能性があるかもしれない」と述べる。興味深い指摘だ。
その理由として、ラックマンは、「欧州は、依然として中国から電池と鉱物を必要とする」と述べ、米国との違いを指摘する。1970∼80年代、日本は米国の要求を受けて繊維や鉄鋼、カラーTV、自動車など種々のセクターで対米輸出自主規制を実施した。日本側には大きな不満があったが、それでも今振り返ると貿易戦争回避のための一つの知恵だったのではないか。
日本は独自の対処が必要
対中競争については、日米欧夫々の状況は違うのでそれに応じて対処も違うだろう。米国は補助金政策等により、海外からの電池生産投資やEV生産投資を呼び込み、再産業化をしようとしている。
欧州には米国のような補助金はないし、野心的な環境目標達成のためには中国EVの輸入が必要だ。難しい政策のジレンマを抱えているようだ。
日本は中国EVの大量輸入等に直面している訳ではなく、国内には半導体や強い電池産業、EV製造能力等もあるようなので、米欧とはまた違った政策が必要だろう。国内産業の強化のほか、インド等「中国プラス1」の供給網構築を先んじてやっていく必要がある。
さらに、安全保障関連の対中規制はきちっとやるべきだ。しかし問題のない大半の分野については市場の力を大事にして、過度な経済の政治化には注意する。