2024年12月11日(水)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2023年10月15日

『Wedge』2021年9月号から23年8月号にかけて掲載された連載『1918⇌20XX 歴史は繰り返す』が「Wedge Online Premium」として、電子書籍化しました。それに際し、22年7月号に掲載した 『ナチ台頭許した「ヴァイマル共和国」社会の分断が招く破滅』を公開いたします。電子書籍は、アマゾン楽天ブックスhontoでご購読できます。

 民主主義の危機が叫ばれるようになって久しい。米国のトランプ前大統領の4年間はもちろん、最近では今年4月のフランス大統領選挙の決選投票でマリーヌ・ルペン氏が4割以上の票を獲得したことも、危機感を高めている。権威主義諸国が台頭する一方、民主主義の範例であったはずの米仏で、右派ポピュリズム勢力が大きな支持を得ているのだ。

1923年、ナチ党の突撃隊。ナチ党は分断された社会の中で徐々に勢力を拡大していった(HULTON ARCHIVE/GETTYIMAGES,)

 こうした中、しばしば歴史の淵から呼び出されるのが「ヴァイマル共和国」である。第一次世界大戦の敗戦と革命の中で成立し、当時世界で最も先進的な民主憲法を備えていたドイツの共和政である。その憲法は人民主権に基づき、男女普通選挙権を導入し、社会権といった新しい権利も取り入れていた。しかし、世界恐慌の中で左右の反体制勢力の挟撃に遭い、1933年のナチ政権成立によって打ち倒された。

 民主政が危機にあり、ついには倒れてしまうのではないか。われわれの現在の状況は、ヴァイマル共和国と似ているのではないか。こうした不安を背景に、米欧では、改めてヴァイマル共和国史の現代的な意義を説いた書物が相次いで刊行されている。

 日本にも紹介されたものとして、筆者がナチ研究者の小野寺拓也氏と共に監訳した『ナチズムは再来するのか?』(慶應義塾大学出版会)がある。これは、5人の歴史家と2人の政治学者が現代とヴァイマル時代を比較したものだ。

 また、『ドイツ人はなぜヒトラーを選んだのか』(亜紀書房)の著者ベンジャミン・カーター・ヘットは、現代世界が「30年代に酷似している」という危機意識から、過ちを繰り返さないために本書を刊行したという。

 現代はヴァイマル共和国の時代とは異なる。しかし、現代の民主政とヴァイマル共和国とは、見逃せない類似性も存在する。前述の2冊をはじめとする近年の研究に基づき、あえてそうした類似点に着目してみたい。あらかじめ要点を言えば、分極化ないし分断された社会というのがヴァイマル共和国の重要な特徴であり、ナチ党は、そうした社会の中でポピュリズム政党として成功したということである。


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